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積分球を使ったトータル反射率スペクトル測定

光ファイバー入力CCD分光器と積分球を使用すれば,サンプルの拡散反射スペクトルを簡単に測定することができます. ここでは,光学系における迷光対策の必需品:低反射率材料製品をサンプルにして,光ファイバー入力CCD分光器と小型積分球を組み合わせた分光システムで測定したトータル反射率スペクトルの比較について説明します.

光学系用低反射率材料のトータル反射率スペクトル比較測定

分光システムやカメラを始めとする精密光学系では,筐体内面の反射を極力低く抑えて,迷光によるコントラストの低下やゴーストを排除する必要があり,遮光,迷光低減を目的とした各種低反射率材料製品が市販されています.
ここでは,比較的簡単に入手できる植毛紙などの低反射率材料製品をサンプルにして,光ファイバー入力CCD分光器と小型積分球を使ったトータル反射率スペクトルの比較測定結果を見ていきましょう.

図1は,各低反射率材料の一例を撮影した比較写真です.表面反射の違いを際立たせるために,敢えて露出オーバーにしています.

光源放射強度1図1 各種低反射率素材の比較写真

図1は,左から,(a) 表面黒アルマイト処理アルミ板,(b) カメラ用反射防止シート,(c) 植毛紙,(d) 写真用遮光テープです.撮影画像からも,可視領域の表面反射強度が製品によって違うことを確認できます.

図2に光ファイバー入力CCD分光器と小型積分球を使ったトータル反射率スペクトルの測定光学系構成例を示します. ハロゲン光源の光を光ファイバーと広帯域光ファイバーコリメーターBBFC-02SMA(2023年5月,後継機種:BBFC-03SMAに移行)を使って積分球のサンプルポートに置かれたサンプルに照射します. サンプル表面で拡散反射した光は積分球出力ポートに繋がれた光ファイバーで分光器に導入されます. 本測定では,低反射率領域を高精度で測定する必要があるため,電子冷却裏面入射型高S/Nファイバーマルチチャンネル分光器QEProHCを使い,約350 ~ 950nmの波長領域でスペクトル測定を行いました. QEProHCは,ノイズレベルが低く,18bitのADCが搭載されているため,微弱光の高精度測定が可能です. 低反射率領域を精度良く測定するために,反射率のリファレンスには,ラブスフェア社製NIST準拠反射率スペクトルデータ付きスペクトラロン反射板(反射率:約5%)を使用しました.

植毛紙2図2 小型積分球を使ったトータル反射率スペクトル測定系の構成例

図3に,テストサンプルのうち低反射率性能が悪かった2製品の反射率スペクトルを示します. A:A社製遮光紙,B:B社製植毛紙,比較のため,反射率の基準として分光器用に表面処理されたアルミニウム板のトータル反射率スペクトルも載せました.

植毛紙5 図3 各種低反射率素材製品のトータル反射率スペクトル-1

A,Bともに可視領域のトータル反射率は基準とした表面処理アルミニウム板に比べて多少高い程度ですが,紫外領域,近赤外領域で反射率が上がってしまっています. 特に,700nm以降の近赤外領域では桁違いに大きな反射率になっており,これはもはや低反射率とは言えません. 見た目に黒く見えていても,高度な迷光除去が要求される撮影や分光計測の場面では使い物になりません.

図4に低反射率性能がよかった製品グループのトータル反射率スペクトルを示します. C:C社製植毛紙(スェード),D:D社製反射防止シート(カメラ用),E:E社製植毛紙,F:F社製植毛紙,G:G社製植毛紙,および低反射率の基準として分光器用に表面処理されたアルミニウム板です.

植毛紙6 図4 各種低反射率素材製品のトータル反射率スペクトル-2

全体的に表面処理アルミニウム板より低い反射率を示しています. Cのスェードタイプの植毛紙だけは,700nm以降の近赤外領域で反射率が上がる傾向がありますが,図3に示したA,Bに比べれば1/8 ~ 1/20の反射率です. 通常の植毛紙は紙面に対して垂直に毛が植えられていますが,スェードタイプの植毛紙は紙面に平行に毛が植えられています. 毛の側面が表面に出ている分,通常の植毛紙より反射が多いと推測されます.
E ~ Gの植毛紙は,測定波長全域で反射率が0.8%程度で,ほぼ同一の反射率スペクトル形状となりました. 特にFとGの反射率スペクトルは酷似しており,販売元は異なるのですが,製造元は同一である可能性があります.
E ~ Gの植毛紙は低反射率が実現できており,迷光の低減に有効です. しかし,植毛紙は,その名の通り,表面に毛が高い密度で植えられているため,ホコリが付きやすく除去しづらいという問題があります.

Dのカメラ用反射防止シートは,植毛紙に比べると0.2%ほど反射率は高いのですが,植毛紙ほどは毛足が長くないので,ホコリの除去については多少やりやすい感じがします.
いずれにしましても,低反射率を維持するためには,表面を清浄な状態に保つことが重要です.


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