膜厚測定,分光測定,分光エリプソメトリー,スペクトル解析のテクノ・シナジー

透過率スペクトル/反射率スペクトルの測定解析

光学膜厚測定システムDF-1045RTは,透過率スペクトル/反射率スペクトルの測定が行え,得られた測定スペクトルから,スペクトル解析ソフトウエアSCOUTを使って膜厚や屈折率を求めることができます. 光が透過する膜サンプルでは,反射率スペクトルと透過率スペクトルを同時に解析することで,より確からしい膜厚,光学定数測定を行うことができます. ここでは,Ta2O5膜,TiO2膜を例に,透過率スペクトル/反射率スペクトルの同時解析による膜厚,屈折率測定の概要を示します.

Ta2O5膜:透過率/反射率スペクトルの同時解析

Ta2O5膜やTiO2膜は,光学フィルターなどの誘電体多層膜に多用される膜材料です. ここでは,BK7基板上のTa2O5膜を例に,透過率スペクトルおよび反射率スペクトルに対する同時フィッティング解析から,膜厚,光学定数を決定するプロセスについて解説します.

測定サンプルは,イオンビームアシスト法(IAD: ion-beam assisted deposition)で成膜されたTa2O5膜(設計膜厚:790 nm)です.

図1に,透過率/反射率測定における光学膜厚測定システムDF-1045RTの装置構成を示します.

膜厚測定 R&T1 図1 光学膜厚測定システムDF-1045RTの装置構成

ハロゲン光源から出た入射光は,2分岐光ファイバーの一方:光源用光ファイバーを通り広帯域光ファイバーコリメーターBBFC-02SMA(2023年5月,後継機種:BBFC-03SMAに移行)によってコリメート光になってサンプルに照射されます. サンプルを透過した光は透過光受光用コリメーターで集光され光ファイバーで分光器に導かれます. サンプルで反射した光は,2分岐光ファイバーの一方:反射光受光用光ファイバーに集光され分光器に導入されます. 分光器が1台の場合は,反射光受光用光ファイバーと透過光受光用光ファイバーを順番に分光器に接続して,透過率スペクトル,反射率スペクトルを測定します. 分光器を2台用意できる場合は,光ファイバーを付け替えることなく透過率スペクトルと反射率スペクトルの測定が行えます.

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図2に,Ta2O5膜サンプルの層構造と測定光学配置を示します.

膜厚測定 R&T2 図2 Ta2O5膜サンプルの層構造と測定光学配置

コリメート光を使い,0°入射の透過率スペクトルおよび0°入射の反射率スペクトルを測定しました. サンプル面上での測定ビーム径は,虹彩絞りを使って約φ1 ~ 5mmの範囲で調整できます.

最初に,BK7基板のみで測定された透過率スペクトルおよび反射率スペクトルに対して光学モデルフィッティングを行い,BK7の誘電関数を決定しました. 次に,Ta2O5膜サンプルのスペクトル測定をして,予め求めておいたBK7の誘電関数を使ってフィッティング解析を行いました.

図3に,Ta2O5膜サンプルの測定透過率スペクトル,測定反射率スペクトル,および同時スペクトルフィッティング解析で得られた解析結果の計算スペクトルを重ね書きします.

膜厚測定 R&T3 図3 Ta2O5膜サンプルの透過率/反射率に対する同時フィッティング解析結果

本測定のように,情報量の増加・測定精度の向上を目的として,透過率および反射率スペクトルを合わせて解析することは一般によく行われます. その際注意すべきことは,矛盾する複数の測定スペクトルを同時解析したのでは,むしろ収束を悪化させてしまうということです. 特に,反射率測定は測定誤差が入りやすいため,サンプル面法線と光軸を正確に調整することが重要です. 透過率スペクトルと反射率スペクトルを合わせて解析する場合には,同一測定場所・同一測定条件となるよう心がけ,基板および膜が透明な波長領域で,透過率スペクトルと反射率スペクトルの和が1になっていることを確認するといいでしょう.

解析には,図2に示す単純な単層膜モデルを使用し,BK7基板の厚さが 1 mmと厚いため,基板裏面からの反射光は非干渉光(インコヒーレント光)として扱いました. Ta2O5膜の膜厚初期値は,設計値の 790 nmを採用しました. BK7基板とTa2O5の誘電関数には,内部バンド間の電子遷移による共鳴吸収をOJLモデル [1] と調和振動子モデルの重ね合わせで近似した誘電関数モデルを用いました.

[1] S. K. O'Leary, S. R. Johnson, P. K. Lim: J. Appl. Phys., 82 (1997) pp.3334-3340.

スペクトルフィッティング解析の結果得られた膜厚は791.4nmです.
図4に,解析により求められたTa2O5膜の光学定数スペクトルを示します.

膜厚測定 R&T4 図4 Ta2O5膜の屈折率スペクトル

TiO2膜:透過率/反射率スペクトルの同時解析

上記Ta2O5膜の場合と同様の測定解析をTiO2膜に対しても行いました. サンプルは,BK7基板上にイオンビームアシスト法(IAD: ion-beam assisted deposition)で成膜されたTiO2膜で設計膜厚は319 nmです.

図5に,TiO2膜サンプルの測定透過率スペクトル,測定反射率スペクトル,および同時スペクトルフィッティング解析で得られた解析結果の計算スペクトルを重ね書きします.

膜厚測定 R&T5 図5 TiO2膜サンプルの透過率/反射率に対する同時フィッティング解析結果

スペクトルフィッティング解析の結果得られたTiO2膜の膜厚は319.2nmです.
図6に,解析により求められたTiO2膜の光学定数スペクトルを示します.

膜厚測定 R&T6 図6 TiO2膜の屈折率スペクトル

光学膜厚測定システムDF-1045RTを用いることで,コリメート光による0°入射の透過率スペクトル,反射率スペクトルを簡単に測定することができ,スペクトル解析ソフトウエアSCOUTを使ったスペクトルフィッティング解析によって,膜の膜厚,光学定数スペクトルを求めることができます.


スペクトルフィッティング解析の詳細については,スペクトル解析ソフトウエア SCOUTの技術資料をご覧ください.

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