膜厚測定,分光測定,分光エリプソメトリー,スペクトル解析のテクノ・シナジー

ダイクロイックミラーの膜厚・屈折率評価

スペクトル解析ソフトウエアSCOUTを使えば,CCD分光器で測定した薄膜サンプルの透過率,反射率,吸収,ATRスペクトルから膜厚測定や光学定数決定をすることができます. 振動子モデルを使って光学定数を記述するため,多種多様な膜材料に対応でき,真空紫外領域からテラヘルツ領域に至る広い波長範囲でのスペクトル解析が可能です. 例えば,透過率と反射率,多入射角反射率など複数の測定スペクトルを同時に解析することで,測定精度を向上させることができます.

誘電体多層ダイクロイックミラー:反射率スペクトルの解析

高屈折率の透明材料膜(誘電体膜)と低屈折率の誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜で作製されるダイクロイックミラー ( Dichroic mirror ) は,反射光と透過光がお互いに補色関係になるように白色光を色分割する機能を持った光学素子で,所望の波長帯だけをほぼ100%反射するミラーを作ることができます [1].
誘電体多層膜技術を用いれば,ダイクロイックミラー以外にも,ある波長を境に短波長側だけ透過させるショートパスフィルター,ある波長を境に長波長側だけ透過させるロングパスフィルター,ある波長だけ透過するバンドパスフィルター,ある波長だけ透過させないバンドリジェクションフィルターなど多彩な分光特性を持つフィルターを設計・製作することができます.

[1] 田所利康:「ビジュアル解説 光学入門」, 朝倉書店 (2024).

図1にダイクロイックミラーの概要を示します.

Dichro01 図1 ダイクロイックミラーの概要

設計波長λ で反射率が高い誘電体多層膜ダイクロイックミラーを作製する場合,屈折率nH の高屈折率材料 H (TiO2, Ta2O3, Al2O3, ZrO2, HfO2など)と屈折率nL の低屈折率材料 L (SiO2, MgF2など)を,基本的に,それぞれの膜厚を設計波長λ の1/4波長,すなわちdH = λ /4・nH, dL = λ/4・nL にして交互に積層することによって,各層境界面からの反射光が表面反射光と同位相となり,設計波長λ において非常に高い反射率を実現することができます.

図2に成膜層数が増加するにつれて変化する反射率スペクトルのシミュレーションを示します. 図に示すように,層構造はTiO2とSiO2の交互積層膜を仮定しました.層数が増加するに従って,特性がシャープになって行くことが分かります.

Dichro02 図2 ダイクロイックミラー:層数の増加により変化する反射率スペクトル(シミュレーション)

図3に測定解析に用いたダイクロイックミラーの透過率スペクトル/反射率スペクトルを示します.

Dichro03 図3 ダイクロイックミラーの透過率スペクトル/反射率スペクトル

このダイクロイックミラーの場合,波長700 nm付近±50 nmの赤い光をほぼ完全に反射するように設計されています.そのため,図4のように,ダイクロイックミラーで波長700nm付近の赤色の光が強く反射されます.一方,透過では,波長700nm付近の赤色の光が全く透過しないため,反射光の補色である青緑色になります.

Dichro04 図4 ダイクロイックミラーの反射光と透過光は補色関係になる

図4にダイクロイックミラーの層構造を示します.

Dichro05 図5 ダイクロイックミラーの層構造

IAD 法で石英基板上に成膜された低屈折率材料:SiO2, 高屈折率材料:Ta2O5 の交互積層膜 19 層のダイクロイックミラーです. SiO2層同士, Ta2O5膜同士は同じ膜厚で成膜されていて,それぞれの膜厚は118.5 nm, 80.0 nmです.

図6にダイクロイックミラーの反射率スペクトルに対するフィッティング解析例を示します. 赤線が測定反射率スペクトル,青線が光学モデルに基づき計算されたシミュレーションスペクトル収束値です.

Dichro06 図6 ダイクロイックミラーの反射率スペクトルフィッティング解析例

ダイクロイックミラーなどの誘電体多層膜の透過率・反射率のスペクトル測定では,多くの場合,透過率/反射率が0から1までダイナミックに変化するため,測定に使用する分光システムに広いダイナミックレンジと高い縦軸リニアリティーが要求されます. CCDのリニアリティーが良い領域のみを使うような露光時間調整,SN改善のための積算などスペクトルの測定精度を担保することに注意を払う必要があります.

図7は,ダイクロイックミラーの透過率スペクトル,反射率スペクトルに対して同時フィッティング解析を行ったスペクトル解析ソフトウエアSCOUTの画面キャプチャーです.

Dichro07 図7 SCOUTを用いた透過率スペクトル,反射率スペクトルの同時フィッティング解析

スペクトル解析ソフトウエアSCOUTは,CCD分光器などで測定した誘電体多層膜サンプルの透過率,反射率,吸収などのスペクトルから膜厚測定や光学定数決定を行うのに力を発揮します.

スペクトルフィッティング解析の詳細については,スペクトル解析ソフトウエア SCOUTの技術資料をご覧ください.

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