膜厚測定,分光測定,分光エリプソメトリー,スペクトル解析のテクノ・シナジー

カラーキャンドルの炎色反応

光ファイバー入力のCCD分光器を使用すれば,蛍光鉱石,生物発光,LED光源,蛍光灯,ハロゲン光源などの発光スペクトルを簡単に測定することができます [1]. ここでは,カラーキャンドルの炎色反応による発色とその発光スペクトル測定について説明します.

[1] 大津元一監修,田所利康著:「イラストレイテッド 光の実験」, 朝倉書店 (2016).

カラーキャンドルの炎色と発光スペクトル測定

色付きの炎が灯るカラーキャンドルがWebストアや100円均一で販売されていて,誕生日,クリスマス,記念日などの演出に重宝されているようです. 図1は,Webストアで購入したカラーキャンドルです. キャンドルのサイズは,50mm × φ5mm程度で,燃焼時間は約8分です. 以下,キャンドルの軸の色を識別名にします.

カラーキャンドル1図1 Webストアで入手したカラーキャンドル

図1に示した各色カラーキャンドルの炎の色を図2に示します. こうしたカラフルな炎の色は,主にアルカリ金属やアルカリ土類金属などの金属塩による炎色反応を利用して作られています. ここでは,炎の発光スペクトルを測定して,どんな金属塩を使った炎色反応による発色なのかを調べていきます.

カラーキャンドル2図2 カラーキャンドルの炎の色

図3に炎の発光スペクトル測定に使用した分光装置構成を示します.光ファイバー先端に集光レンズを装着して炎の近くに固定しました. 燃焼と共に炎の位置が下がっていくので,上下位置が調整できるように,キャンドルはZ軸ステージ上に固定しました. 炎が絶えず動き強度が揺らぐため,コア径の太いφ1000µmの光ファイバーを使用し,光をCCD分光器に導入しました. 炎色反応の発光は線スペクトルなので,所有している分光器の中で最も波長分解能が高いUSB4000(スリット幅:25µm)を使用しました(USB4000はFLAME-Tの旧製品です).

カラーキャンドル発光スペクトル測定配置図3 炎の発光スペクトル測定に使用した分光装置構成

図4は,ステージ上に固定されたキャンドルと光ファイバー先端に装着された集光レンズのようすです. 集光レンズには,F:1.4の明るいCマウントレンズを使用し,事前に分光器側から光を入れて,レンズの焦点位置が炎に合うよう調整しました.

カラーキャンドル発光スペクトル測定配置2図4 ステージ上に固定されたキャンドルと光ファイバー先端に装着された集光レンズのようす

カラーキャンドルの製品説明では,軸の色と同じ色の炎の色で燃えるとなっていますが,実際には,図2のように発色があまり良くないものもありました. 以下,炎の発色が青が強くて紫には見えなかったPurpleを除いた,Blue,Yellow,Red,Pink,Greenの5色についてスペクトル測定結果を示します.

図5にBlueキャンドルの炎の発光スペクトルを示します.

カラーキャンドル発光スペクトル:Blue 図5 カラーキャンドルの炎の発光スペクトル:Blue

図5のBlueキャンドルのスペクトルでは,最も強い発光が波長:766.5nm,769.9nmのカリウムの線スペクトルです. 波長:589.0nm,589.6nmのナトリウムの線スペクトル(D線)も見られます. しかし,カリウムとナトリウムの線スペクトル波長では,青い発光色にはならないことから,700nm以下の波長領域の縦軸を50倍程度拡大してみたところ,波長:400 ~ 600nmにも発光していることが分かりました. これだけ微弱は発光によって炎が青く見えるとは考えにくいので,スペクトル測定の焦点位置が青い炎からずれていたことが考えられます. また,残念ながら,波長:400 ~ 600nmに見られる発光の起源は分かりませんでした.

図6 ~ 図8にYellow,red,Pink各色カラーキャンドルの炎の発光スペクトルを示します.

カラーキャンドル発光スペクトル:Yellow 図6 カラーキャンドルの炎の発光スペクトル:Yellow

Yellowキャンドルの黄色い炎は,波長:589.0nm,589.6nmのナトリウムの線スペクトル(D線)によるものです. 弱いカリウムの線スペクトルも見られます. スペクトル縦軸を拡大しても,それら以外の発光は見当たりません.

カラーキャンドル発光スペクトル:Red 図7 カラーキャンドルの炎の発光スペクトル:red

redキャンドルの赤い炎は,波長:670.8nmのリチウムの線スペクトルによるものと思われます. 微弱ですが,ナトリウム,カリウムの線スペクトルも見られます.

カラーキャンドル発光スペクトル:Pink 図7 カラーキャンドルの炎の発光スペクトル:Pink

Pinkキャンドルの炎の色は,リチウムとカリウムの線スペクトルのバランスによって作り出されているようです.

カラーキャンドルの炎の色は,主にアルカリ金属化合物の炎色反応によって作り出されていることが分かりました. また,線スペクトルを測定することで,発色の起源となる元素を推測することができました.

あまりうまく測定できなかった例として,Greenキャンドルのスペクトルを図8に示します. 薄緑色は,700nm以下の波長領域の縦軸を約6.4倍拡大したスペクトルです.

カラーキャンドル発光スペクトル:Green 図8 カラーキャンドルの炎の発光スペクトル:Green

Greenキャンドルの場合,炎内の色変化が大きく,炎のどこでスペクトル測定するかによって得られるスペクトルが異なります. 特に緑色に見える領域が狭く焦点を合わせるのが難しかったため,Greenキャンドルに特徴的なスペクトルを得るのに手間取りました. 図8に示したGreenキャンドルのスペクトルでは,ナトリウム,リチウム,カリウムの線スペクトルの他に,波長:400 ~ 600nmの領域に炎が緑色に見える起源と推測される何本かの線スペクトルとブロードな発光が見られます. 炎の場所によって発色が異なるのは,何本かの線スペクトル強度比が炎の場所によって異なるためと考えられます. 図8の線スペクトルの波長を炎色反応実験に使われる主な元素のスペクトル線波長と照合してみましたが,残念ながら,該当する元素を特定することはできませんでした.

集光レンズとCCD分光器を組み合わせた簡単な分光測定系を使えば,簡便に発光スペクトルを測定でき,元素に特有な炎色反応の線スペクトル情報を得ることができます.


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