膜厚測定,分光測定,分光エリプソメトリー,スペクトル解析のテクノ・シナジー

LCDのスペクトル比較

光ファイバー入力のCCD分光器を使用すれば,蛍光鉱石,生物発光,LED光源,蛍光灯,ハロゲン光源などの発光スペクトルを簡単に測定することができます. ここでは,身近にある液晶ディスプレイ(Liquid crystal display: LCD)を白色表示させたときのスペクトルを測定し,年代順に並べて比較します.

白表示LCDのスペクトル測定

スペクトル測定するLCDは,輝度を最高にして,アプリケーションの白背景を利用して白色を表示させました. 例えば,Windows 10マシンの場合,ペイントの描画領域を白背景にして最大化し,中央付近でスペクトル測定しました.

図1に光ファイバー入力のCCD分光器を使用した発光分光の装置構成例を示します. 装置構成は単純です. 光ファイバー先端を白色表示させたLCDの中央部に向けてスペクトルを測定しています. スペクトルに輝線が含まれる場合もあるので,比較的波長分解能が高いスリット幅:25µmのCCD分光器:USB-4000(FLAME-Tの旧タイプ)を使用しました.

LCDスペクトル測定配置図1 白表示LCDのスペクトル測定の装置構成例

なお,本測定では,分光光学系の分光感度校正を行っていないため,縦軸のスペクトル強度は正しくありません. 赤(R),緑(G),青(B)三色の波長領域で比較すると,青(B)の波長領域が弱く表示されます.

冷陰極管バックライトを使った製品

   ● M社製液晶テレビ(2010年製造)

図2に,M社製液晶テレビ(2010年製造)白表示のスペクトルを示します. LCDでは,バックライトの白色光を赤(R),緑(G),青(B)三色のカラーフィルターを通し,RGBの輝度バランスをコントロールすることでフルカラーを作り出しています.
図2のスペクトル形状から,この液晶テレビでは,冷陰極管を使ったバックライトが採用されていることが分かります.

LCD白色スペクトル1 図2 M社製液晶テレビ(2010年製造)白表示のスペクトル

白色LEDバックライトを使った製品

バックライトに白色LED(Light-Emitting Diode)が使用されているLCD製品を白色表示させたときのスペクトルです. 白色LEDは,冷陰極管の次の世代のバックライト技術です.

白表示させたディスプレイのスペクトル測定から,手持ち電子機器の中で次の製品が白色LEDバックライトのLCDを採用していることが分かりました.

  • A社製ディスプレイ一体型PC(2013年製造)
  • A社製ノートPC(2014年製造)
  • A社製スマートフォン1(2016年製造)
  • P社製ディスプレイ(2018年製造)
  • D社製ノートPC(2019年製造)
  • N社製ミラーレスカメラ(2019年製造)

これら白色LEDバックライトLCD製品のスペクトルには多少の違いはあるものの,基本的には類似したスペクトル形状をしています. ここでは,2013年から2019年にかけて製造された次の3製品のスペクトルを示します.

   ● A社製ディスプレイ一体型PC(2013年製造)

LCD白色スペクトル3図3 A社製ディスプレイ一体型PC(2013年製造)白表示のスペクトル

   ● A社製スマートフォン1(2016年製造)

LCD白色スペクトル4図4 A社製スマートフォン1(2016年製造)白表示のスペクトル

   ● D社製ノートPC(2019年製造)

LCD白色スペクトル5図5 D社製ノートPC(2019年製造)白表示のスペクトル

最近の製品

冷陰極管バックライト,白色LEDバックライトとは異なるスペクトルが得られた製品のスペクトルを紹介します.

   ● P社製HDRディスプレイ(2019年製造)

図6に示すP社製HDRディスプレイ(2019年製造)白表示のスペクトルは,通常の白色LEDバックライトを使ったLCD製品のスペクトル形状とは大きく異なっています. このディスプレイは,HDR(High Dynamic Range)技術が投入された機種で,通常のディスプレイに比べて広い明るさの範囲(ダイナミックレンジ)を表現することができます. 仕様には,バックライトにW-LED システムを採用していると記載されていますが,どのような技術によってHDRが実現されているかは把握できていません.

LCD白色スペクトル6 図6 P社製HDRディスプレイ(2019年製造)白表示のスペクトル

   ● A社製スマートフォン2(2020年製造)

図7に,A社製スマートフォン2(2020年製造)白表示のスペクトルを示します. スペクトル形状は,図9のP社製HDRディスプレイ(2019年製造)とよく似ています. Web上の仕様書では,特に赤系の色域を拡張したカラースペースDisplay P3に対応しているとのことですが,どのようなバックライト技術を採用しているかの記載はありませんでした.

LCD白色スペクトル7 図7 A社製スマートフォン2(2020年製造)白表示のスペクトル

   ● A社製スマートフォン3(2020年製造)

図8に,A社製スマートフォン3(2020年製造)白表示のスペクトルを示します. A社製スマートフォン3は,A社製スマートフォン2より一世代新しく,2020年11月13日に販売開始した機種です. 実は,このスマートフォンは,LCDではなく,OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイです.

LCD白色スペクトル8図8 A社製スマートフォン3(2020年製造)白表示のスペクトル

手近にあるLCDの白色スペクトルの違いを見てきました. LCDのスペクトルを測定するだけで,ディスプレイ技術の変遷の一端を垣間見ることができます.

本測定例のように,CCD分光器を中心に測定系を組めば,お手軽に発光スペクトルを測定することができます.


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