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ワイドバンドギャップ半導体のバンドギャップ測定
スペクトル解析ソフトウエアSCOUTを使えば,薄膜の膜厚測定だけではなく,光学定数(屈折率,消衰係数)測定から光学バンドギャップを求めることができます. ここでは,文献 [1] で行ったα-(AlxGa1-x)2O3の光学バンドギャップ測定法について解説します.
[1] G. T. Dang, T. Yasuoka, Y. Tagashira, T. Tadokoro, W. Theiss, and T. Kawaharamura: "Bandgap engineering of α-(AlxGa1-x)2O3 by a mist chemical vapor deposition two- chamber system and verification of Vegard's Law", Appl. Phys. Lett. 113, 062102 (2018).
測定サンプル:サファイア基板上のα-(AlxGa1-x)2O3薄膜
近年,電気自動車,電気通信,蓄電池に用いられる省電力デバイスの需要が高まりから,SiC,GaN,ダイヤモンド,Ga2O3などのワイドバンドギャップ材料の高効率化が進められており,中でもGa2O3が大きな注目を集めています.
ここでは,α-(AlxGa1-x)2O3薄膜をサファイア基板(Al2O3)上に成長させ,その物性評価を行った文献 [1] の光学バンドギャップ測定法について解説します.
文献 [1] では,成膜に第3世代ミストCVDシステム(FCM反応炉と2つ以上の噴霧器およびミスト混合器を組み合わせた成膜システム)を使い,AlチャンバーおよびGaチャンバーのキャリアガス流量をコントロールすることでバンドギャップを制御しました. 図1に,製作したα-(AlxGa1-x)2O3薄膜サンプル:S1 ~ S6のサンプル成膜時におけるAlチャンバーおよびGaチャンバーのキャリアガス流量を示します. AlチャンバーおよびGaチャンバーのキャリアガス流量制御によって,6水準のバンドギャップ値を持つサンプルバリエーションを作製しました.
以降,サンプル名をS1 ~ S6と表すことにします.
透過率スペクトル測定とスペクトル解析
ワイドバンドギャップ材料のバンドギャップを求めるには,真空紫外領域におけるスペクトル測定が必要になります. 文献 [1] では,図2に示すイオン化エネルギー測定装置 BIP-K201(分光計器製)を使い,真空紫外領域(波長範囲:130 ~ 290nm)における透過率スペクトルを測定しました.
BIP-KV201は,本来,半導体材料などのイオン化エネルギー(イオン化ポテンシャル)や仕事関数を測定することを目的とする装置で,透過率測定は付加的な機能です. 文献 [1] の測定に使用した高知工科大学のBIP-K201は,透過率測定の機能を搭載した特殊仕様になっています.
もし,真空紫外領域の透過率スペクトル測定を主目的にするならば,図3に示す卓上型真空紫外分光光度計 KV-202(分光計器製)を選択するのが良いでしょう.
スペクトルの解析には,スペクトル解析ソフトウエア SCOUTを用いました. BIP-K201を使って測定した真空紫外領域(波長範囲:130 ~ 290nm)における透過率スペクトルに対して,光学モデルから計算されたシミュレーションスペクトルのフィッティング解析を行うことで,薄膜の膜厚,光学定数などを求めることができます.
本測定解析では,まず,サファイア基板の透過率スペクトル測定結果のフィッティング解析から,サファイア基板の光学定数を求め,サファイア基板の光学定数を固定して,α-(AlxGa1-x)2O3薄膜の膜厚および光学定数を求めました.
基板およびα-(AlxGa1-x)2O3薄膜の誘電関数(光学定数)は,次の電気感受率の和としてモデル化しました.
【サファイア基板の誘電関数】
・背景誘電率
・観測波長範囲より短波長側の電子分極吸収: Lorentz振動子
・バンドギャップ付近の非対称な吸収: OJLモデル [2]
・局所的な吸収: Kim振動子モデル [3] × 2
【α-(AlxGa1-x)2O3薄膜の誘電関数】
・背景誘電率
・観測波長範囲より短波長側の電子分極吸収: Lorentz振動子
・バンドギャップ付近の非対称な吸収: OJLモデル
・局所的な吸収: Kim振動子モデル × 6
[2] S.K.O'Leary, S.R.Johnson, P.K.Lim, J.Appl. Phys. Vol. 82, No. 7 (1997) pp. 3334-3340.
[3] C.C. Kim, J.W. Garland, H. Abad, P.M. Raccah, Phys. Rev. B 45 (20) (1992) 11749-11767.
サファイア基板およびα-(AlxGa1-x)2O3薄膜の光学バンドギャップ(いわゆるTaucギャップ)は, バンド端付近におけるスペクトル形状記述するOJLモデルのGap energy収束値として得られます.
スペクトル解析ソフトウエア SCOUTについては下記製品紹介ページを,スペクトルフィッティング解析,誘電関数の概要については「徒然「光」基礎講座|膜厚測定・干渉分光法とは」をご参照ください.
サファイア基板の光学定数決定
サンプル薄膜の測定解析に先立ち,まず,サファイア基板の透過率スペクトル測定を行い,スペクトルフィッティング解析により真空紫外領域におけるサファイアの光学定数(屈折率,消衰係数)を決定しました.
図4にサファイア基板の透過率スペクトル/ABSスペクトルとそのフィッティング結果を示します.
透過率の低い波長領域についても精度良くフィッティングをするために,透過率スペクトルとABSスペクトルの同時解析を行っています.
図4の解析によって得られたサファイア基板の光学定数を図5に示します.
解析によって得られたサファイア基板のバンドギャップは,8.60eVです.
以下に示すα-(AlxGa1-x)2O3薄膜のスペクトルフィッティング解析では,図5でえられたサファイア基板の光学定数を固定しています.
α-(AlxGa1-x)2O3薄膜の透過率スペクトル測定とそのフィッティング解析
α-(AlxGa1-x)2O3薄膜サンプル:S1 ~ S6の透過率スペクトル測定結果を図6に示します.
第3世代ミストCVDシステムのキャリアガス流量コントロールによって,バンドギャップが期待通りに制御されています.
以下,S1 ~ S6各サンプルの透過率スペクトル/ABSスペクトルとそのフィッティング結果を示します.
透過率の低い波長領域についても精度良くフィッティングを行うために,透過率スペクトルとABSスペクトルの同時解析を行いました.
なお,波長180nm付近に分光器のフィルター切換に起因する段差が発生するため,白背景でシェードした波長181.5nm±4nmの領域をフィッティングから除外しています.
図13に各サンプルの膜厚収束値と光学バンドギャップ収束値をまとめます.
α-(AlxGa1-x)2O3中のAl組成比 x を横軸に取り,各サンプルにおける光学バンドギャップ値をプロットしたのが図14です.
α-(AlxGa1-x)2O3薄膜のバンドギャップに関するディスカッションの詳細は文献 [1] に記載されています. さらに,研究内容の詳細は高知工科大学川原村敏幸教授のホームページをご参照頂ければ幸いです.
» 高知工科大学川原村研究室ホームページ (外部サイト)
ワイドバンドギャップ材料では,バンドギャップを正確に求めることが重要です. 真空紫外領域を高精度に測定できる分光システムとスペクトル解析ソフトウエアSCOUTを組み合わせることで,薄膜の膜厚および光学定数と同時に,光学的にバンドギャップを測定することができます.