膜厚測定,分光測定,分光エリプソメトリー,スペクトル解析のテクノ・シナジー

バルク樹脂材料の光学定数測定

分光エリプソメーターは,精密な膜厚測定だけではなく,精度の高い光学定数(屈折率: n ,消衰係数: k )スペクトルの測定が可能です. ここでは,水族館の水槽などに使用されるメタクリル樹脂を例に,分光エリプソメーターを使った,バルク材料の光学定数測定の概要を示します [1],[2].

[1] 田所利康:「第2章 光学特性の測定原理と測定法 2.5 分光エリプソメトリー(1)」,成形加工,28, 2 (2016) pp62-67.
[2] 田所利康:「第2章 光学特性の測定原理と測定法 2.6 分光エリプソメトリー(2)」, 成形加工,28, 3 (2016) pp102-106.

メタクリル樹脂板の光学定数スペクトル測定

メタクリル樹脂板( 2 mm厚)を例に,バルク材料の光学定数スペクトル測定の概要を見ていきましょう. メタクリル樹脂は,アクリル樹脂とも呼ばれ,強靭で加工しやすく,透明性が高く耐候性に優れ,着色も容易で見た目が美しいことから,水族館の水槽,光学材料,日用雑貨などに広く利用されています.

図1(a)に,光をメタクリル樹脂板に入射した場合の反射と透過のようすを示します.

屈折率測定 アクリル1 図1 (a) 透明平板サンプルにおける表面反射に対する裏面反射の重畳,
(b) 不要な裏面反射光の除去のための裏面処理の一例.

本例のメタクリル樹脂板のような透明で板状の試料は一般にミリメートルオーダーの厚さがあり,入射光の波長(約0.5µm)に比べると桁違いに厚く,波長よりも大きな厚みバラツキを持ちます. そのため,試料の裏面で反射され試料内を往復する裏面反射は,表面反射とは干渉しません. また,板厚が中途半端に薄い場合,干渉光/非干渉光が混じり合った部分干渉を起こすため,さらに話が複雑になります. つまり,裏面反射を含んで測定される振幅比角Ψと位相差Δは,バルク材料の表面反射における本来のΨ,Δの定義からずれてしまうため,透明なバルク材料の測定では,何らかの方法を使って,裏面反射を除去する必要があります.

裏面反射を除去する方法の一つは,図1(b)のように,試料裏面をサンドブラストや紙やすりで荒らして光を乱反射させ,裏面反射が検知器に届かないようにすることです. この裏面処理によって,空気-メタクリル樹脂界面における反射光のみが観測され,バルク材料として解析することができます.

測定には回転補償子型分光エリプソメーター(J. A. Woollam社製 M-2000UI)を用いました. 波長範囲は 245 nm 〜 1690 nmです. 入射角は主入射角より低角:50°,主入射角付近:60°,主入射角より高角:70°の3入射角で測定しました(屈折率 n = 1.5の材料では主入射角は56.3°). 多入射角測定を行う目的は,情報量を増やし,測定精度を向上することです.

図2にΨ,Δのスペクトルフィッティング解析の結果を示します. 透明な材料の場合,主入射角より低入射角:50°ではΔ = 180°,高入射角:60°, 70°ではΔ = 0°になります. 図から確認できるように,全ての入射角,Ψ,Δスペクトルの全波長範囲で良好なフィッティングが得られています.

屈折率測定 アクリル2 図2 (a) Ψスペクトルおよび (b) Δスペクトルのフィッティング解析結果

解析では,メタクリル樹脂の光学定数をCauchyの分散式 [1] を用いて記述しました. Cauchyの分散式は,Sellmeierモデル [2] を級数展開した近似式で,消衰係数 k = 0 と見なせる波長領域における屈折率nの記述に用いられます. Cauchyの分散式の適用に当たっては,クラマース・クローニッヒの関係式を満足しないことに注意を払う必要があります. つまり,測定波長領域全域にわたって,消衰係数 k = 0 で透明な材料にしか使えません.

屈折率測定 アクリル2

式中のA,B,Cは解析変数です.

図3に解析によって得られたメタクリル樹脂の光学定数スペクトルを示します. 透明樹脂,金属酸化物などの誘電体の紫外可視近赤外領域における光学定数の多くは,透明(k = 0)で屈折率 n が正常分散する下図と似たスペクトル形状になります.

屈折率測定 アクリル3 図3 メタクリル樹脂の光学定数スペクトル

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