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チタン陽極酸化膜の顕微膜厚測定
膜厚が不均一で,表面が平坦ではない薄膜サンプルの膜厚測定では,ミクロ領域で測定できる顕微分光が非常に有効です. ここでは,金属チタン表面に施された陽極酸化被膜(TiO2膜)の顕微膜厚測定について解説します.
金属チタン表面陽極酸化膜の顕微膜厚測定
金属チタンは,高強度で軽量,耐食性,耐熱性,耐環境性に優れていることから,航空宇宙,海洋,工業,建築など様々な分野で利用されています. さらに,陽極酸化技術で膜厚を制御しながら酸化皮膜を付けることで,豊富なカラーバリエーションを作り出すことができることから,宝飾品,芸術作品にも使用されます.
ここでは,チタン製カラビナをサンプルにして,その表面に施された陽極酸化被膜(TiO2膜)の膜厚を顕微分光法を使って測定解析した結果について説明します.
測定に使用したチタン製カラビナを図1に示します.
金属チタン表面は,陽極酸化技術によって酸化チタン皮膜が付けられていいるため薄膜干渉によってカラフルな見た目です.
図1に示したカラビナ本体上面の比較的平坦で傷がない領域を顕微鏡下で探し,干渉色が異なる複数領域において反射率スペクトル測定を行いました. 図2に,観察および反射率スペクトル測定に用いた顕微分光光学系を示します.
対物レンズはLU Plan Fluor 10x を使用し,コア径:φ200µmの光ファイバーで分光器に接続しました.
図3は,分光器側の光ファイバーからハロゲン光を入射して撮影したサンプル表面の写真です.
測定スポット径は約Φ20µmです.
図4に,膜厚が異なる4領域の測定反射率スペクトルとスペクトルフィッティング解析結果を示します. スペクトルの線色は,見た目の色に対応させています.
測定反射率スペクトルの線色は見た目の色に合わせてあり,シミュレーションスペクトルは細い紺色の線で表しています.
解析では,層構造を金属チタン基板上の表面ラフネス層を含む単層膜とし,測定スポット内で膜厚がガウス分布していると仮定しました.
また,表面ラフネス層には有効媒質近似を用いました.
場所によって異なる発色を示す起源が膜厚の違いであると予想し,チタン酸化皮膜の光学定数は固定値を用い全測定領域で同一としました.
チタン酸化皮膜の光学定数は,分光エリプソメトリーにより決定した別のTiO2膜サンプルの光学定数を採用しました.
金属チタン基板は純度や素性が分からないため,未知の金属基板の誘電関数としてフィッティング変数に加えました.
図4に示した通り,全ての測定スペクトルで良好なフィッティング結果が得られています.
図4の結果から,チタン酸化皮膜の光学定数にローカリティーはなく,異なる干渉色の起源は膜厚の違いであると考えて良さそうです.
図5に解析に用いた酸化チタンの光学定数スペクトルを示します.
各測定領域における表面酸化膜の収束膜厚値,膜厚バラツキ(ガウス分布の1/e 全幅)を示します. 膜の光学定数を固定しているため,膜厚の絶対値は真値からずれている可能性があります.
図3のように表面にキズや不均一がある薄膜サンプルでは,微小領域での分光測定が有効である場合が多く,顕微分光システムが力を発揮します.