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誘電関数って何だ? : 1. 誘電率の基礎

誘電関数って何だ?

1. 誘電率の基礎

本講座第1回は,誘電関数やLorentzモデルを理解する上で避けて通れない誘電率の基礎についてお話しします.

1.1 分極と電気双極子

物質を構成する原子は原子核と電子からなり,電子は原子核の周りに束縛されている雲のような存在です. 例えば,ガラスなどの物質に電場が加えられたとしましょう. 電場は,コンデンサー内の電場でも,光の電場でもかまいません. 物質中では, 図1(a) のように,電子の雲の位置が原子核に対して相対的にずれて,電荷の偏りが生じます. これを分極 ( polarization ) と呼びます. 分極にはいくつかの種類がありますが,その代表が原子核とその束縛電子により形成される電子分極 ( electronic polarization ) です(電子分極以外の分極については,「8. 誘電率と屈折率を広い範囲で見渡そう」で説明します).

分極の大きさは誘電率 ( dielectric constant ) ε で表されます. 分極を起こす物質を誘電体といい,分極で形成される電荷対を電気双極子 ( electric dipole ) と呼びます. 図1 では,イメージし易いように原子一つに一つの電気双極子を対応させて描いてありますが,原子と電気双極子は必ずしも 1 対 1 に対応するものではありません.

図1 分極と電気双極子モーメント
図1 分極と電気双極子モーメント

1.2 電気双極子モーメント

電気双極子の電荷を q ,負電荷から正電荷に向かう相対位置ベクトルを l とすると,電気双極子モーメント (electric dipole moment) は, µ = q l で与えられます (図1(b) ). 分極 P は,単位体積 [m3] あたりの電気双極子モーメント µi [Cm] のベクトル和で,単位は [Cm-2] です.

(1)式

さて,真空中の電束密度 D と電場 E の関係は (2) 式のように定義されます.

(2)式

ただし, ε0 は真空中の誘電率です. 誘電率 ε の媒質に (2) 式を適用するには,真空中の誘電率 ε0 を物質の誘電率 ε で置き換えます.

1.3 電気感受率を求める

電束密度 D [Cm-2] は,単位面積を貫く電束数です. 電束は, 図2のように,q [C] の正電荷から q [本]放出され, -q [C] の負電荷に q [本] 吸い込まれる線として描かれます.

図2 正電荷から放出され負電荷に吸い込まれる電束
図2 正電荷から放出され負電荷に吸い込まれる電束

電束密度 D と電場 E は (2) 式の通り誘電率 ε を係数とした比例関係にあるので両者のベクトルの向きは等しく,電束密度 D は,電場 E の空間分布を表す電気力線と同様の分布になります. しかし,電束と電気力線とでは電荷に対する本数が異なります. すなわち,電束は電荷1C当たり1本であり,電気力線は電荷 1C 当たり 1/ε [本] です. これは,電束数 (つまり,電束密度 D ) が媒質の誘電率に依存しないのに対して,電気力線数 (つまり,電場 E ) は媒質の誘電率によって変化することを意味しています. 例えば,誘電率 ε = 2ε0 の媒質中では,電気力線数が真空中の ε0 / ε = 0.5 倍になります.

ここで,図3の平行平板コンデンサーに電圧を駆けた場合を例に,誘電体の誘電率について考察していきましょう. 電極の表面電荷によって形成される電束密度 D と電場 E の関係は図3(a) の通りです. 図では,表面電荷を 1C ごとにまとめて描いてあり,正電荷から負電荷に向かって,電荷 1C に 1 本づつ電束が描かれています.

図3 平行平板コンデンサー内に挿入された誘電体の分極
図3 平行平板コンデンサー内に挿入された誘電体の分極

コンデンサーの電極間に誘電率 εp の誘電体を挿入してみましょう. 図3(b) は,コンデンサーに加えられた電場 E によって,コンデンサー電極間に挿入された誘電体内に分極が生じ,電気双極子が形成された状態を示しています. 誘電体内部の点線で囲まれた領域では,分極により発生した正電荷と負電荷の量が等しく,相殺されて電気的に中性になりますが,誘電体表面には,図3(c) のように,負電荷 (上面) と正電荷 (下面) が残ります. これを分極電荷と呼びます.

分極電荷を 1C ごとにまとめて描いた図3(d) を見ましょう. 分極 P は,電束密度 D と同じ単位 [Cm-2] で,分極電荷 1C に1本づつ図示されています. 分極 P は,電束密度 D とは逆に負電荷から正電荷に向かうベクトルなので,誘電体中では分極 P 分だけ電束密度 D が打ち消されます. つまり,誘電体中の電場 E は,電束密度 D から分極 P を差し引いた ( D - P ) に比例して, (2) 式のように低下します.

(3)式

(3) 式から,電束密度 D は (4) 式で表すことができます.

(4)式

物質が電場に線形応答 [注] する場合には, 物質固有の電気感受率 (electrical susceptibility): χ を使って,P = ε0 χ E と置くことができます.

【注】 媒質に波が入射されたとき,波動の振幅がある程度以下であれば,媒質は入射波と同じ周波数で線形に応答します. 振幅がある程度以上に大きくなると,入射波とは異なる周波数で応答する非線形応答が急激に増加します. 非線形応答の例としては,楽器の基本音に重畳する倍音,高出力レーザーの集光ビームにより発生する高調波などが挙げられます. 日常目にする光学現象は,ほとんど全て線形に応答しています.

光学では,一般的に, εp を ε0 で割って無次元化した比誘電率 (relative dielectric constant) ε が用いられます. (4) 式を変形し ε は (5) 式のように表されます.

(5)式

(5) 式の通り,物質の比誘電率は,真空の比誘電率 ε = 1 に物質固有の分極の寄与である電気感受率 χ が足されたものでです. 光学分野では,比誘電率 ε を単に誘電率と呼ぶことが多く,混同しないよう注意が必要です. 本講座でも,比誘電率を単に誘電率と呼びます.
誘電体に交流電場を駆けた場合,印加電場の周波数によって電気感受率: χ の値は変化します. χ の周波数特性については,本講座第7回「Lorentz振動子の誘電関数」で議論します.

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