膜厚測定,分光測定,分光エリプソメトリー,スペクトル解析のテクノ・シナジー

光学用語解説:【アルファベット】,【あ行】

光学用語解説

【アルファベット】

Abs Absorbance

Absは吸光度(absorbance)の略称です. 吸光度とは分光法において,光がある物体を通った際に強度がどの程度弱まるかを示す量です. 光学密度(OD: optical density)とも呼ばれることがあります.
→ ランバート・ベールの法則

吸光度

Chaucy の分散式

スペクトル解析領域が紫外領域にある電子分極の吸収帯から遠く,消衰係数 k = 0 で透明とみなせる場合,屈折率nの正常分散スペクトルを Chaucy の分散式(別名 Cauchy モデル)で近似することができます [L. Cauchy] .

Chaucyの分散式

式中の A , B , C は解析変数です. Cauchy の分散式は, 屈折率 n に関する方程式ですが, Sellmeier モデル の近似式であり, Sellmeier モデルの式を級数展開することにより得られます.
図は, Chaucy の分散式の適用例です.シリコン酸化膜( SiO2 )は可視領域において透明で, Chaucy の分散式で近似した SiO2 の屈折率は文献値 [G. E. Jellison] とよく一致します.

Chaucyの分散式を使った解析例:シリコン酸化膜の屈折率
Chaucyの分散式を使った解析例:シリコン酸化膜の屈折率

[L. Cauchy] L. Cauchy: bull. des. sc. maht. 14, 9 (1830).
[G. E. Jellison] G. E. Jellison, Jr: "Optical functions of GaAs,GaP, Ge determined by two channel polarization ellipsometry", Opticals Materials, 1 (1992) pp.151-160.

→ 徒然「光」基礎講座|誘電関数って何だ?

Lorentz 振動子 Lorentz oscillator

重りを吊されたバネ振動を物理モデルとした古典力学的な減衰振動子. 光と物質の相互作用である電子分極は,正電荷を持つ原子核と負電荷を持つ電子がバネで束縛されているLorentz 振動子で記述できます. Lorentzモデルとも呼ばれます.
→ Lorentz モデル

→ 徒然「光」基礎講座|誘電関数って何だ?

Lorentz モデル

Lorentz モデルは, 正電荷を持つ原子核と負電荷を持つ電子がバネで束縛されているとする古典的なモデルで,量子効果は考慮されません. 光の電場振動 E = E0 exp (iωt) に対して, 質量の大きい原子核は動かず, 電子だけが粘性流体中を振動する物理モデルを仮定しています. 光の電場などの外場から与えられるエネルギーと粘性抵抗で失われるエネルギーが釣り合って安定に振動します. このような振動子を,減衰振動子 ( damped oscillator ) と呼びます. Lorentzモデルの運動方程式は次式で与えられます.

Lorentzモデルの運動方程式
Lorentzモデルの運動方程式

ここで mee は, それぞれ電子の質量と電荷です. 右辺の第2項は 粘性流体 中の粘性抵抗によるエネルギー損失を表しており, 運動速度が遅い場合は速度に比例します. Γ は粘性抵抗の比例係数で, 減衰係数 ( damping coefficient ) と呼ばれます. 左辺第3項は, 光の電場によって移動した電子がフックの法則 ( F = -kF x ) に従って復元することを表しています. ここで, ω0 はバネの共鳴角振動数で, F = -kF x から ω0 = (kF / me)1/2 と与えられます. 上式は, 光の交流電場によって電子が exp ( iωt ) で加振される減衰振動子の運動方程式になっています.
図は Lorentz モデルから計算される誘電関数,挿入図は減衰振動子の運動モデルです.

Lorentz モデルから計算される誘電関数
Lorentz モデルから計算される誘電関数

→ 執筆書籍紹介|『ビジュアル解説 光学入門』

→ 徒然「光」基礎講座|誘電関数って何だ?

NA numerical aperture

→ 開口数

Sellmeier モデル

Sellmeier モデルは, Lorentz モデルの ε2 ~ 0 に対応し, 共鳴角周波数ω0に比べ非常に低い角周波数領域(ω ≪ ω0 )において Γ → 0 を仮定することで導出されます. 式中の A, B, は解析変数です. k = 0 と見なせる解析波長領域で誘電体の膜厚を求める場合などでは,Sellmeier モデルの式を級数展開し多項式近似したChaucyの分散式もよく使われます.

ダミー
Sellmeier モデル

→ 徒然「光」基礎講座|誘電関数って何だ?

【あ行】

アッベ数 Abbe's number

ガラスなどの透明媒質で可視領域における屈折率の分散(波長による変化)を評価する指標で,ドイツの物理学者 Ernst Abbe の名前からアッベ数と呼ばれています. 分散能の逆数なので逆分散能(reciprocal dispersion power)と呼ばれることもあります. フラウンホーファー線の C 線(656.3nm), D 線(589.3nm),d線(587.56nm), F 線(486.1nm)に対する屈折率をそれぞれ, nC , nD , nd , nF とすると,

アッベ数

で定義される νD または νd が用いられます.

異常光線 extraordinary ray

方解石のような複屈折物質に光を入れると,ある偏光は屈折の法則に従って進みますが,それと直交する偏光は屈折の法則に反した方向に屈折して,二方向に分かれて進みます. 屈折の法則に従う方の光線を常光,従わない方の光線を異常光線といいます. 異常光線に対する屈折率は,光の進行方向によって変化します.

異常光の進み方
解石(複屈折物質)中の常光と異常光の進み方

位相 phase

波が一周期の中でどの状態にあるかを示す量です. 例えば, y = A cosφ では, φ が位相, A が振幅です. 位相が 2π 増すと波は一周期進みます. 干渉や回折で二つ以上の波(成分波)が重ね合わせられる場面では,各成分波間の位相のずれ(位相差)が問題となります.

波の位相,振幅と波の足し合わせ
波の位相,振幅と波の足し合わせ

→ 執筆書籍紹介|『イラストレイテッド 光の科学』

位相差板 retarder

複屈折性のある物質の薄板で作られた光学素子で,直交する2つの偏光の位相差を制御します. 屈折率の高い軸方向に振動面を持つ光と,それと直交する屈折率の低い軸方向に振動面を持つ光は,位相差板を通過する間に特定の位相差が生じます. 代表的な位相差板は,4分の1波長の位相差を作る1/4波長板です.

1/4波長板
位相差板の例:1/4波長板

→ 執筆書籍紹介|『ビジュアル解説 光学入門』

→ 徒然「光」基礎講座|光学異方性媒質中の光の伝搬

色座標 color coordinates

多くの人間が識別できる色調を2次元平面座標で示したものを色座標,見える色の範囲を示した図を色度図と呼びます. 基準となる軸の取り方によって xy 色度図以外に複数の色度図があり,相互に変換可能です.

色座標(XY色度図)
色座標(XY色度図)

エアリーディスク Airy disc

円形開口のフラウンホーファー回折で,投影スクリーン上に形成されるエアリーパターンの中心から最初の暗線に囲まれた明るい中心領域をエアリーディスクと呼びます. 回折光全体の約84%の光が,エアリーディスク内に集中しています.

円形開口のフラウンホーファー回折像とエアリーディスク
円形開口のフラウンホーファー回折像とエアリーディスク

→ 執筆書籍紹介|『イラストレイテッド 光の科学』

エアリーパターン airy pattern

円形開口のフラウンホーファー回折で,投影スクリーン上に形成される同心円状の回折パターンをエアリーパターンと呼びます. 式を導出したイギリスの天文学者ジョージ・ビドル・エアリーにちなんで名付けられました.

エアリーパターン
エアリーパターン

→ 執筆書籍紹介|『ビジュアル解説 光学入門』

液晶 liquid crystal

結晶中の分子は,3次元的な周期構造を持ち,分子の方向に規則性を持っています. 一方,液体では分子の方向や分子の重心位置に規則性はなく,ランダムに動き回っています. 多くの物質では,結晶から液体,液体から結晶に直接変化しますが,物質によっては結晶⇔液体の変化過程で結晶とも液体とも異なる中間状態を経るものがあります. 液晶は,それら中間状態の一種です. 液晶には,さらに,ネマチック液晶,コレステリック液晶,スメクチック液晶といった副分類があります.

物質の三態と中間状態の存在
物質の三態と中間状態の存在

ネマチック液晶: ネマチック液晶は,分子の方向が揃った液体で,通常の液体と同様に流動性がある一方で光学異方性を持っています.ほとんど全ての液晶ディスプレイ(LCD:liquid crystal display)には,ネマチック液晶が使われています.

コレステリック液晶: コレステリック液晶は,キラリティー(掌性)を持つ分子から成るネマチック液晶で,分子の方向がある周期で連続変化します.周期の長さが光の波長程度の場合,構造色が発現します.

スメクチック液晶: スメクチック液晶は,層構造を持った液晶層で流動性はほとんどありません.生体膜やシャボン膜などの脂質2分子膜もスメクチック液晶の一種と考えることができます.

ネマチック液晶,コレステリック液晶,スメクチック液晶
ネマチック液晶,コレステリック液晶,スメクチック液晶

液晶ディスプレイ LCD:liquid crystal display

棒状の液晶分子が並んだ向きが外からの電場により変化することと,液晶が光学的異方性を有する物質であることを組み合わせて,液晶パネルを通過する光の偏光状態を電場により制御して明暗変化を作る表示装置です. カラーフィルターを使って赤,緑,青の3原色画素を作りカラー表示を行っています.

液晶ディスプレイの動作原理
液晶ディスプレイ(Twisted nematicモード)の動作原理

エバネッセント波(エバネッセント場) evanescent field

高屈折率媒質から低屈折率媒質に光を入射すると,臨界角以上の入射角では光が完全に反射される全反射が起きます. 光は波動性を持つため,全反射時も界面を越えた瞬間に振幅が完全に0にはならず,界面から指数関数的に減衰する成分が存在します. これをエバネッセント波(エバネッセント場)と呼びます. 全反射測定法(ATR: Attenuated Total Reflection)は,エバネッセント波の染み出す深さが光の波長程度であることを利用して,反射界面付近にある物質の性質を調べる分光分析法です.

全反射界面におけるエバネッセント波の発生
全反射界面におけるエバネッセント波の発生

→ 執筆書籍紹介|『ビジュアル解説 光学入門』

エリプソメーター

偏光解析パラメーター(振幅比角: Ψ ,位相差: Δ )を測定する装置をエリプソメーター(ellipsometer)と呼びます.エリプソメーターには,偏光素子配置や変調機構の異なるいくつかの測定法が存在し,測定機構上,大きく消光法(null ellipsometry)と測光法(photometric ellipsometry)に分けられます. 消光法は,直交ニコル(crossed Nicols)の偏光子配置で,検光子の透過光量が 0 になる消光状態を利用し,プローブ光の偏光状態を測定します. 消光法は,測定分解能が高い反面,操作が煩雑で,測定に長い時間を要するという欠点があります. また,測定に λ / 4 板を用いるため,基本的に分光エリプソメトリーには向きません.
一方,光学系を消光状態にせず,検光子通過後の光強度をそのまま測定する方法を,消光法に対して測光法と呼びます. 測光法には,偏光素子を機械的に回転させる回転検光子型(rotating analyzer)および回転補償子型(rotating compensator),光弾性変調器を用いた位相変調型(phase modulation)などがあります.

エリプソメーターの測定方式
エリプソメーターの測定方式

エリプソメトリー

エリプソメトリーは,電磁波の基本的な性質である「偏光」を利用した計測法です. エリプソメトリーでは,試料に入射された偏光が試料表面で反射する際に生じる偏光変化を観測して,薄膜の光学定数(屈折率 n ,消衰係数 k ),膜厚 d の高感度・高精度な計測を行います. 入射面内に電場振動面がある直線偏光を p 偏光,それと直交する直線偏光を s 偏光と呼びます. p 偏光と s 偏光は反射に際して偏光状態が変わらない偏光であり,全ての偏光状態は p 偏光と s 偏光のベクトル合成として表すことができます. ある直線偏光を試料表面に斜入射すると, p 偏光と s 偏光とで複素振幅反射係数(振幅反射係数,反射位相)が異なるため,反射光は一般に楕円偏光になります. 試料表面における p 偏光と s 偏光の複素振幅反射係数をそれぞれ rp , rs とすると,その比 ρ = rp / rs は偏光解析関数(Ellipsometric function)と呼ばれます.

エリプソメトリー
エリプソメトリー

→ 徒然「光」基礎講座|分光エリプソメトリーとは

 

テクノシナジーの膜厚測定システム
膜厚測定 製品ラインナップ
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