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光学用語解説:【か行】
【か行】
開口数 numerical aperture
凸レンズで平行な光束(コリメート光)を集束するとき,レンズの最外周部からの光と光軸が成す角を θ として, NA=sinθ で定義される値を開口数(NA)と呼びます. 開口数はレンズの分解能を求めるための指標になります. 同じ焦点距離のレンズなら,開口数が大きいほど,光学分解能が高く,大きな立体角で光を集めることができるために明るくなります.
回折 diffraction
光や音などの波が障害物と出会った後,波が直進したのでは到達できない筈の障害物背後の影となる領域に回り込んでいく波特有の現象を回折といいます. 回折は,障害物のサイズに比べて波の波長が長いほど強く表れます. 例えば,花火大会で音は聞こえるが花火はビルが邪魔で見えないといった現象は,波長が長い音は容易にビルの影に回り込むのに対して波長が短い光はわずかしか回折せず光が届かない影を作るからです.
図では障害物に開口がある場合について説明ていますが,逆に,波長に近いサイズの障害物がある場合には,水面波が杭に当たって円形波が広がるように回折を起こします.
回折限界 diffraction limit
理想的なレンズで光を集光しても,焦点には,レンズの開口数と波長で決まる波長程度の大きさの回折像(エアリーパターン)ができて,決して1点に集光することはありません. 幾何光学で光線が1点に集光するかのように作図するのは,幾何光学は波長の大きさを無視した近似だからです. 焦点面に2つの回折像がある場合,2点間の距離が光の波長程度より近くなると,回折像が重なり合って,やがて分離することが出来なくなります. この光の回折による光学的な分解能の制約を回折限界と呼びます.
→ レイリーの分解能(レイリー基準)
回折格子 diffraction grating
光の回折を利用した光を波長順に並んだスペクトルに分ける光学素子を回折格子といいます. 等間隔で平行に刻まれた多数の溝からの回折光が重ね合わされて,反射 / 透過した光が波長毎に異なる特定の角度(回折角)で強められる結果,光はスペクトルに分解されます. 図に示した回折格子では,奥行き方向に伸びる細い円柱状の障害物が波長に近い間隔 d で規則正しく並んでいます. 回折格子では,それぞれの障害物を中心に回折光が円筒状に広がりますが,隣り合う障害物が発する回折光同士の位相差がちょうど波長の整数倍になる方向で,波の山同士/谷同士が一致して強め合う干渉をします. この回折光が強め合う出射角度は回折角と呼ばれます. 回折角は,図中の式のように,光の波長 λ と格子間隔 d で決まります. m 波長分の光路差で回折する光を m 次回折光(高次回折光)と呼びます. 1 次回折光が最も強く,高次回折光ほど弱くなります.
格子間隔 d が一定ならば,回折角の大小は波長順に並びます. 図は,青色レーザー(405nm),緑色レーザー(532nm),赤色レーザー(650nm)それぞれについて透過回折格子を使った回折像を撮影し,ソフトウエアで画像合成したものです. 赤の回折の左右外側に見えているのは2次回折光です. 回折格子の代表的な応用は,白色光をスペクトルに分解して単色を取り出す分光器です. 分光器には,一般的に反射型回折格子が使用されます.
重ね合わせの原理 superposition principle
光や音などの波に共通する特徴の一つは,「重ね合わせの原理」に従うことでです. 重ね合わせの原理が成り立つ場合,二つ以上の波(成分波)が,ある時刻ある場所で出会うと,合成される波(合成波)の振幅は,成分波の振幅を全て足し合わせたものになります.
加算混合(加算混色) additive mixture
ディスプレイのように,光を重ねて色を作るときの色の生じ方です. 赤(R),緑(G),青(B)を三原色(光の三原色)とし,2つ以上の色が重なって作られた色のスペクトルは,それぞれの色のスペクトルの和になります. 光が全くない状態が黒,3原色を重ね合わせた状態が白です.
→ 減法混合
加法混合 additive mixture
干渉 inteference
干渉とは,二つ以上の波が空間の場所で重ね合わされたときに,波が強め合う,あるいは弱め合う現象です. シャボン玉や水面上の油膜に見られる鮮やかな虹色が,膜の干渉により作り出されることはよく知られています.
→ 田所利康:『大人こそ楽しみたいシャボン玉の魅力』,月刊うちゅう2022年1月号(2022) pp.4-9.
干渉分光法 interference spectroscopy
薄膜の干渉現象を利用して,薄膜試料の反射率,透過率などの分光スペクトルから膜厚や光学定数などを測定する光学的手法が干渉分光法です. 干渉分光法は,測定原理が簡単で測定装置が比較的安価なことから,さまざまな分野での膜計測に応用されています.
→ 徒然「光」基礎講座|膜厚測定の基礎・干渉分光法とは
幾何光学 geometrical optics
幾何光学とは,光の波動性や量子性を無視し,反射の法則,スネルの法則(屈折の法則)のみで光線の進み方を幾何学的に議論する光学の分野です. 光学系のサイズに比べて光の波長が無視できる場合の光学現象を取り扱い,カメラレンズなど光学機器の設計に用いられます.
吸光係数 absorption coefficient
吸光係数とは,光がある媒質に入射したとき、その媒質がどれくらいの光を吸収するのかを示す定数です. 吸収係数とも呼ばれます.
ここで, I0 は入射光強度,透過距離 x 進んだあとの光強度を I ,吸光係数は α です.
物質の吸収を記述するための消衰係数 k を加えた複素屈折率(実部:屈折率 n ,虚部:消衰係数 k )を定義して,吸収物質内の光の伝搬のようすを考えると,次の図のようになります. 吸収物質内を進行する光は,消衰係数によって指数関数的に減衰します. これをランバート・ベールの法則と比べることで,吸光度 α と消衰係数 k の関係式が得られます.
吸収係数 absorption coefficient
共鳴 resonance
共鳴とは,振動子系に,様々な周波数の外力が加わったとき,ある周波数を持つが威力のエネルギーが振動子系にいどうして,振動子系の振幅が増加する現象です.共鳴が生じる機構の例としては,振り子の固有振動や,気管における定在波の発生などがあります.
共鳴吸収 resonance absorption
重りが吊されたバネなどの振動子系では,重りの重さとバネの強さ(バネ定数)で決まる固有振動数(共鳴周波数)が存在します. 共鳴吸収は,振動子系がその共鳴周波数付近の周波数を持つ外力を受けたとき,エネルギーを強く吸収する現象です. 光の場合には,物質に照射された光の電場に物質内の電荷が振動応答する際,その共鳴周波数を中心とした周波数帯で光が強く吸収されます. 吸収された光のエネルギーは,例えば,熱に変換されて物質温度を上昇させたり,電子を励起して電流を発生させたりします.
共鳴周波数 resonance frequency
重りが吊されたバネなどの振動子系では,重りの重さとバネの強さ(バネ定数)で決まる固有振動数が存在します. 固有振動数は,外場の周波数と共鳴することから,共鳴周波数とも呼ばれます. 振動子系に,様々な周波数の外力が加わったき、,共鳴周波数と一致する周波数を持つ外力のエネルギーが振動子系に移動して,振幅が増加します. 共鳴が生じる機構の例としては、,振り子の固有振動や,気管における定常波の発生などがあります.
屈折 refraction
屈折とは,光が屈折率の異なる二つの媒質1,媒質2の境界面を通過する時に,光の進行方向が変化する現象です. 屈折は,二つの物質間で光の伝搬速度が異なることによって生じます. 屈折角 θt は,入射角 θi と媒質1の屈折率 n1 ,媒質2の屈折率 n2 の比で決まります(スネルの法則).
屈折の法則 law of refraction
屈折の法則とは,波動が媒質界面で屈折するとき,二つの媒質中での進行波の伝搬速度と,入射角・屈折角の関係を表した法則です. 発見者の名前からスネルの法則(Snell's law)とも呼ばれます.
→ スネルの法則
屈折率 refractive index
真空中の光速度 c と媒質中の光速度(位相速度) v との比 c / v .光が屈折率 n1 の媒質1から屈折率 n2 の媒質2との境界面に入射して屈折するとき,入射角 θi と屈折角 θr との間にはスネルの法則が成り立ちます.
屈折率楕円体 index ellipsoid
光学的異方性をもつ結晶の主屈折率を nx , ny , nz として,
で表わされる楕円体を屈折率楕円体といいます. ただし結晶の透磁率は真空の透磁率と等しいとします. 1 軸性の場合には一つの軸屈折率のみが異なり,ポジ型の 1 軸性結晶では,図のように nx = ny = no < nz = ne となります. 光学軸( z 軸) 方向に進む光では, (b) のように光の進行方向に垂直な断面は円になり,偏光面の方位によらず屈折率は一定値 no となります. 一方,光を光学軸と垂直な x 軸方向から入射すると,光の進行方向に垂直な断面は (c) のように楕円になり, y 軸方向の屈折率は no のままですが,z 軸方向の屈折率は ne になります. つまり,偏光面が光学軸( z 軸) と垂直な常光線は屈折率 no で伝搬し,偏光面が光学軸と平行な異常光線は屈折率 ne で伝搬することになります.
(d) のように,光の入射方向を光学軸( z 軸)から xz 面内に角度 θ 傾けた方向にとった場合,光の進行方向に垂直な断面はやはり楕円になりますが,その長軸の長さは入射角 θ に依存して変化します. つまり,常光線に対するy軸方向の屈折率は no のままですが,異常光線に対する屈折率は no と ne の中間値をとることになります. この時の異常光線に対する屈折率 neff (θ) は次式で与えられます [R. Yamaguchi] .
[R. Yamaguchi] 山口留美子: 日本液晶学会サマースクール2003 予稿集, 日本液晶学会(2003) 19-32.
蛍光・燐光 fluorescence ・ phosphorescence
可視光より短波長の光を吸収して物質中の電子が励起され,それが基底状態に戻る際に余分なエネルギーを光として放出する発光現象(フォトルミネッセンス)のうち,発光寿命が短いものを蛍光,長いものを燐光と呼びます. 蛍光・燐光ともに,電子を励起する光の波長より長い波長帯で発光します.
検光子 analyser
偏光顕微鏡や偏光を使った光学実験系において,偏光の有無や偏光面の方向を知る目的で,試料より後方に置かれる偏光子を検光子と呼びます.
→ 偏光子
減算混合(減算混色) subtractive mixture
減算混合とは,絵の具などの吸収物質を混ぜ合わせて色を作るときの色の生じ方です. シアン (C) ,マゼンタ (M) ,イエロー (Y) を三原色(色の三原色)として, 2 つ以上の色の混ぜ合わせで作られた色のスペクトルは,それぞれの色のスペクトルの積になります. 色が全くない状態が白,三原色を重ね合わせた状態が黒です. 実際には,シアン (C) ,マゼンタ (M) ,イエロー (Y) を混ぜ合わせても純粋な黒が得られにくいため,印刷ではシアン (C) ,マゼンタ (M) ,イエロー (Y) に黒 (K) を加えて CMYK の 4 色で色を作っています.
→ 加算混合(加算混色)
顕微鏡 microscope
光学顕微鏡 ( optical microscope ) : レンズを使って物体の像を拡大して見られるようにする顕微鏡.現在では,対物レンズと接眼レンズで構成される複式顕微鏡が一般的です. 分解能は,観察波長と,対物レンズの開口数(NA)によって決まり,半波長から波長程度に制限されます.
走査型プローブ顕微鏡 ( scanning probe microscope ): 物体表面を探針でなぞって表面の凹凸画像を得る顕微鏡. なぞるときに用いる物体と針の相互作用により (1) トンネル電流:走査型トンネル顕微鏡 ( STM: scanning tunneling microscope ) , (2) 針と物質間の原子間力:原子間力顕微鏡 ( AFM: atomic force microscope ) , (3) 針先の穴から浸み出る近接光と物質の相互作用:走査型近接場顕微鏡 ( NSOM: near field scanning optical microscope ) などがあります. 分解能は相互作用の種類によって異なりますが,最も分解能がよい走査型トンネル顕微鏡では,原子 1 個を見ることができます.
電子顕微鏡 ( electron microscope ) : 光の換わりに電子を用いる顕微鏡. 電子は波動性を有しており,電子の波長は速度が速いほど短くなります. 電子の波長は可視光の波長に比べるとはるかに短いため,光学顕微鏡より高い分解能が得られます. 電子顕微鏡は,透過型電子顕微鏡 ( TEM: transmission electron microscope ) と走査型電子顕微鏡 ( SEM: scanning electron microscope ) に大別されます. 透過型は,光学顕微鏡のように物質を透過した後に結像した電子の強度分布を観察します. 走査型は,試料表面を収束した電子線で走査し,それぞれの場所から放出される電子を観察して画像を作り出します. 電子は大気中では長くは進行できないため,測定系全体を減圧して使用します.
軟X線顕微鏡 ( soft X-ray microscope ) : 可視光よりも 3 桁程度波長が短い軟 X 線を使った顕微鏡. 軟 X 線領域では,ほとんどの物質の屈折率が 1 程度で,通常のレンズが使用できず,集光光学系を工夫する必要があります. モリブデン / シリコンの交互積層膜ミラーや,回折光学素子であるフレネルゾーンプレートの X 線用レンズを使用します.
顕微分光法 microspectroscopy
光学顕微鏡の光学系を使用して反射率スペクトル,透過率スペクトル,吸収スペクトルなどの測定を行い,微小領域における定性的,定量的な評価を行う手法です.
減法混合 subtractive mixture
光学異方性 optical anisotropy
物質の複素屈折率が光の入射方向や偏光面の方向により異なる現象. 例えば,炭酸カルシウム(CaCO3)の結晶である方解石に光を入射すると屈折率異方性のために,常光線と異常光線に分かれて別々の方向に進みます. 屈折率異方性のことを複屈折性ともいいます.
光合成 photosynthesis
植物,植物プランクトン,藻類などが,光エネルギーを活用して二酸化炭素と水から有機化合物と酸素を作り出す生化学反応過程.
光子 photon
量子力学の枠組みで光を取り扱う時に粒子としての性質を示す光に対して与えられた名称.
構造色 structural color
可視光を吸収せずそれ自体には色がない物質が,光の波長程度の微細構造を持つことによって発色する現象,またはその色のことを構造色といいます. 構造色は,微細構造によって生じる光の干渉,回折,散乱などによって生み出されます. 構造色の例は, CD , DVD ,シャボン玉,モルフォ蝶,玉虫,螺鈿,オパール,空の青,虹などが有名です.
→ 徒然「光」基礎講座|構造色とは
黒体 black body
外部から入射された全ての波長の電磁波を完全に吸収,また熱放射できる物体を黒体と呼びます. また,黒体から放出される熱放射を黒体放射といいます. 完全な黒体は,現実には存在しないと言われています.
黒体放射 black body radiation
熱せられた黒体から放射される熱放射光を黒体放射と呼びます. 黒体放射の輝度スペクトルは温度に依存し,そのスペクトル形状はプランクの法則から求められます. 温度が低いときは赤っぽく,温度の上昇と共に黄色から白色,さらに高温になると青みがかります. 放射される光の色に対応する黒体の温度を色温度といい,絶対温度(K:ケルビン)で表示されます. 私たちが通常目にする太陽光の色温度は,5000〜6000Kです.
コロイド colloid
微粒子が分散した液体や気体の状態のこと. コロイド状態にレーザー光などの直進性の高い光を入射すると,コロイド粒子による散乱で光路が可視化されるチンダル現象が生じます.