SCOUT講座1 「コンピュータシミュレーションによる光学スペクトル分析」 (5/13)
3. スペクトルシミュレーションの基礎
3.1 あらまし
コンピューターシミュレーションによる光学スペクトルの解析は, 次の 5 つのステップで行われます.
- 対象サンプル系に含まれる全ての材料の光学定数を定義します.
- 膜の層構造をセットアップします.
- 計算されるべきスペクトルを定義して, 測定スペクトルと比較します.
- シミュレーションスペクトルと測定スペクトルの誤差が最小化するように, 変化させる (フィットさせる) モデルパラメーターを選択します.
- 測定データが満足のいくクオリティーで再現できるまで, 自動的もしくはインタラクティブに光学モデルを変化させます.
3.2 光学定数
材料は, 複素誘電率という形でマクスウェル方程式中に登場します. この複素誘電関数の平方根を取ったものは, 複素屈折率と呼ばれます. 複素屈折率と複素誘電率は, しばしば, 光学定数とも呼ばれます.
それぞれの物質は, 非常に特徴的な光学定数の周波数依存性を持っています. 良好なスペクトルシミュレーション結果を得るには, 正しい光学定数モデルを選択することがキーポイントとなります. 続く各セクションで, この非常に重要な問題について議論していくことにしましょう.
それぞれの物質は, 非常に特徴的な光学定数の周波数依存性を持っています. 良好なスペクトルシミュレーション結果を得るには, 正しい光学定数モデルを選択することがキーポイントとなります. 続く各セクションで, この非常に重要な問題について議論していくことにしましょう.
図9
※物理系では一般に複素誘電率を ε = ε1 + iε2 と定義し, 光学系では ε = ε1 - iε2 と定義します. どちらの定義もよく使用されています. どちらの定義を採用するかで, 波動関数の位相符号が変わるため, 両者を明確に区別して使用する必要があります [1] .
[1] 田所利康:「ビジュアル解説 光学入門」, 朝倉書店 (2024) p.206. »書籍紹介ページへ
3.3 積層膜, 光の伝播
光は, 光学定数が異なる2つの物質の界面で一部反射し, 残りが透過します. 反射光および透過光の電場振幅は, フレネルの式 ( Fresnel's equation ) で与えられます [2] .
2つの半空間の間の単層膜 (空気中の自己保持膜など) の場合, 膜からの全反射光/全透過光は, それぞれ, 膜内を複数回往復する高次反射光/高次透過光を全て足し合わせたものになります [3] . これら反射 / 透過における波動の足し合わせは, 都合のよいことに, 等比級数を利用して行うことができます [4] .
[2] 田所利康:「ビジュアル解説 光学入門」, 朝倉書店 (2024) p.89.
図10
2つの半空間の間の単層膜 (空気中の自己保持膜など) の場合, 膜からの全反射光/全透過光は, それぞれ, 膜内を複数回往復する高次反射光/高次透過光を全て足し合わせたものになります [3] . これら反射 / 透過における波動の足し合わせは, 都合のよいことに, 等比級数を利用して行うことができます [4] .
[3] 田所利康:「ビジュアル解説 光学入門」, 朝倉書店 (2024) p.137.
[4] 田所利康:「ビジュアル解説 光学入門」, 朝倉書店 (2024) p.202.
図11