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各種照明のスペクトル比較
光ファイバー入力のCCD分光器を使用すれば,光源の発光スペクトルを簡単に測定することができます.さらに,標準光源を使って分光器の感度校正をすれば,光源の放射強度スペクトルが得られます.ここでは,一般的に照明として使用される各種光源の放射強度スペクトルを比較します [1].
[1] 大津元一監修,田所利康著:「イラストレイテッド 光の科学」, 朝倉書店 (2014).
光源によって物の色が違って見える
光源はものの色の見え方を決める重要な要素です.発光原理が違う光源は,放射スペクトルの形が異なり,一見,同じ色の発光に見えても,照らされた物体の色は必ずしも同じにはなりません.
例えば,店では美味そうに見えたマグロの刺身が,買って帰って自宅で見てみると赤黒くて不味そうだったといった経験はありませんか.
その原因は,店の照明と自宅の照明が異なっていることです.もの特有の色は,白色光(太陽光)のもとで見たときに正しい色に見えますが,発光スペクトル分布に偏りがある光源で照明して見ると,異なった色に見えてしまいます.
図1の写真を見てください.上は白熱電球下で撮影した刺身の写真,下は蛍光灯下で撮影した刺身の写真です.蛍光灯の光には赤い波長成分が少ないために眼に届く赤い波長成分も少なくなり,マグロの赤身が黒くくすんで見えてしまいます.夜の飲食店で,蛍光灯が嫌われ,白熱電球が好まれるのにはこうした理由があります.
ここでは,各種光源の見た目の色と放射スペクトルを比較していきましょう.
CCD分光器を使った光源放射スペクトルの測定
図2に光ファイバー入力のCCD分光器を使用した光源の放射強度スペクトル測定系の構成例を示します.本測定では,汎用小型CCD分光器を使い,可視光を中心とする波長領域で測定を行いました.光ファイバーの先端にコサイン・コレクタ(スペクトラロン製標準白色板)を取り付け,光源の近くに配置してCCD分光器に放射光を導入しました.
分光器の回折格子やCCD検出器には,効率や感度に波長分布があるため,NIST(National Institute of Standards and Technology,アメリカ国立標準技術研究所)準拠校正データ付きのハロゲンタングステン標準光源を使って事前にCCD分光器の感度校正を行い,放射強度スペクトルを求めました.
太陽光と白熱電球
さて,早速,各種光源の見た目の色と放射スペクトルを見比べて行きましょう.
まず,晴れた日の太陽光です.
図3に,晴れた日の太陽を照射したマクベスチャート(24色の色見本)を示します.自然な色とは,自然光(太陽光)のもとで見た色です. 照明などの光源が物体を照らしたとき,その物体の色の見え方が如何に自然光に近いかの度合いを,演色性といいます.自然光に近いほど演色性が高く,優れた照明とされます. 図3は,各種光源の色味を比較する際の標準になります.
図4に太陽光の規格化放射強度スペクトル(最大強度を1に規格化したスペクトル)を示します.
図4の太陽光の放射スペクトルは,基本的に,晴れた日の太陽の色温度5000〜6000Kの黒体放射スペクトルに,太陽の大気,地球の大気に含まれるガスの吸収線が重畳したスペクトルです.
外から入射された全ての波長の電磁波を完全に吸収し,また放射できる物体を黒体と呼びます. 熱せられた黒体からは,温度に応じた色の光が放射されます. これを黒体放射と呼びます.ある温度における黒体放射スペクトルは,プランクの法則から求めることができます.
発光体の色を数値で表現する尺度として,その発光体と同じ色の光を放射する黒体の温度を絶対温度(熱力学的温度)ケルビン(K)で表したものを色温度といいます. 図5にプランクの法則から計算した色温度6000K,3000K,2000Kの黒体放射スペクトルを示します.
6000Kは太陽光相当,3000Kはハロゲン光源相当,2000Kはロウソクの炎相当の色温度です. 色温度の上昇とともに,放射スペクトルの強度が増し,放射スペクトルのピーク波長は短波長へと移動します.
金属を熱すると,温度に応じた色の光が放射されることが知られています. 例えば,図6のように金属針の先をガスバーナーであぶると,温度に依存した放射光の色を観察することができます. つまり,炎にさらされた先端は温度が高く白い光を放ちますが,炎から遠ざかるに従って温度が下がっていき,放射光の色は白から黄色,黄色から赤,赤から黒に変化します.
図7に白熱電球を照射したマクベスチャートを示します. 白熱電球は,太陽光に比べると,明らかに赤みが強い光を放射します.
図8に白熱電球の規格化放射強度スペクトルを示します.
白熱電球は,タングステンフィラメントに電流を流したときのジュール熱による放射を利用した光源です. 白熱電球の光は,太陽光と同様の放射ですが,色温度は2000〜3000Kと太陽光の半分程度です. 図5の色温度比較で確認したとおり,3000Kの放射スペクトルは太陽光と比べると長波長の赤外よりにシフトしています. そのため,白熱電球の光は,太陽光に比べると赤みが強く,暖色系の色合いになります.
蛍光灯
太陽光や白熱電球のように,ある波長範囲にわたって連続分布したスペクトルを連続スペクトル,ネオン管や水銀灯のように,所々の波長に不連続な輝線を含むスペクトルを線スペクトルといいます. 蛍光灯では,低圧水銀蒸気中の放電によって発する紫外線を希土類元素の蛍光体に当てて,光の三原色であるRGB(青:450nm,緑:550nm,赤:610nm)三波長の蛍光発光を合成して白色を作っています.
図9に蛍光灯(ナチュラル色)を照射したマクベスチャート,図10に規格化放射強度スペクトルを示します.
図11に蛍光灯(クール色)を照射したマクベスチャート,図12に規格化放射強度スペクトルを示します. ナチュラル色の蛍光灯と比べると,青みがかった色調になります.
ナチュラル色の蛍光灯とクール色の蛍光灯では,基本的な輝線の発光波長は同じですが,発光強度のバランスが異なるため,色調も違っています.
すなわち,クール色が青みがかった色調になるのは,図10と図12の比較から明らかなように,赤:610nmの蛍光発光の強度の違いによるものです.
蛍光灯では,光の三原色RGBを合成して白色を作っているため,特にクール色の蛍光灯では太陽光や白熱電球に比べて赤色の放射光成分は圧倒的に少なくなります.
図11の蛍光灯(クール色)のマクベスチャートの「赤」と図3に示した太陽光のマクベスチャートの「赤」を比べてみてください(図13).
明らかに,蛍光灯(クール色)のマクベスチャートの「赤」が暗く見えます.
これが,図1に示した蛍光灯で見たマグロが赤黒く不味そうに見える理由です.
白色LED
21世紀に入り,省電力の照明として急速に普及しているのが白色発光ダイオード(LED)です. 白色LEDは,青色LEDとその補色である黄色に発光する蛍光体を組み合わせて白色をを作っています. 消費電力が小さく,現在,照明の主流になっています. 白色LED照明の基盤である青色LED開発の功績が認められ,2014年,赤﨑勇,天野浩,中村修二の3氏にノーベル物理学賞が授与されました.
図14に白色LED(昼白色)を照射したマクベスチャート,図15に規格化放射強度スペクトルを示します.
図16に白色LED(電球色)を照射したマクベスチャート,図15に規格化放射強度スペクトルを示します.
白色LEDの場合,青色LEDの発光強度とその補色である黄色蛍光体の発光強度のバランスを変えることで,昼白色と電球色の色調を変えてます.
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