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光学異方性媒質中の光の伝搬: ジョーンズ行列 1

光学異方性媒質中の光の伝搬

3. ジョーンズ行列 1

ジョーンズベクトルに続き,ジョーンズ行列について解説します.

3.1 ジョーンズ行列とは

図5のように,ジョーンズベクトル Ei で表される偏光状態のビームが,ある光学素子に入射したときに,光学素子から新たな偏光状態のベクトル Et が出射されたとします.

図5 光学素子によるジョーンズベクトルの変換
図5 光学素子によるジョーンズベクトルの変換

この光学素子による入射偏光 Ei から出射偏光 Et への変換は,ジョーンズ行列(Jones matrix)と呼ばれる 2 × 2 行列を用いて数学的に記述できる過程です. 光学素子のジョーンズ行列を A と表すと,光学素子による偏光の変換過程は,

(8)式

と書けます. (8)式を展開すると,次のように書き下せます.

(9)式

等方性媒質の場合,対角成分 a11 ,a22 のみが値を持ち,非対角成分は 0 になります.

(10)式

つまり,等方性媒質に入射された偏光の x 成分は x 成分のまま,y 成分は y 成分のまま出射されるわけです. しかし,光学異方性媒質の場合,座標軸に媒質の光学軸を合わせて非対角成分が 0 となるようにしない限り,ジョーンズ行列の各成分は値を持ちます. すなわち,光学異方性媒質では,一般的に入射偏光の x 成分( y 成分)は,(9)式の通り,出射光の x 成分と y 成分に振り分けられることになります.

3.2 偏光子のジョーンズ行列

偏光子(polarizer)は,入射光の偏光状態にかかわらず,出射光が必ず直線偏光になる素子です.

図6 偏光子のジョーンズ行列
図6 偏光子のジョーンズ行列

偏光子のジョーンズ行列 P は,x 軸方向を透過軸にとって,図6のように与えられます. 光検出器の直前で使用される偏光子を,特に検光子(analyzer)と呼び,ジョーンズ行列 A で表します. 偏光子(または検光子)から出射する偏光は,次の行列計算で求められます.

(11)式

偏光子では,Ei がどんな偏光であっても,出射光は必ず ( Etx = Eix , Ety = 0 ) になります.

偏光子に,特定方位の偏光を入射した場合のジョーンズ行列計算を見ていきましょう.

図7 偏光子に対する 45°方位の直線偏光の入射
図7 偏光子に対する 45°方位の直線偏光の入射

例えば,偏光子に 45°方位の直線偏光を入射したとすると,偏光子からの出射偏光は,

(12)式

で与えられます. 偏光子は,x 軸方向の光だけを透過させるために Ety = 0 となり,x 軸方向を透過する光の強度 ( I ∝ | Etx |2 ) は 1/2 になります.

3.3 遅相子

遅相子(wave retarder)は,y 軸方向の波動成分のみに位相遅延を与える働きをする光学素子です. 遅相子は,移相子(retarder),補償子(compensator)とも呼ばれます. 遅相子の進相軸を x 軸とすると,Eix の位相を基準にして,遅相軸の y 軸では Ety が δ の位相差をもって出射されます( δ < 0:位相遅れ, δ > 0:位相進み).遅相子を表すジョーンズ行列 C は,図55のとおりである.

図8 遅相子のジョーンズ行列
図8 遅相子のジョーンズ行列

遅相子から出射する偏光は,(13)式のジョーンズ行列で求めることができます.

(13)式

遅相子の例を見てみましょう. 図9は,ホモジニアス配向した棒状液晶を遅相子に使用した例です.

図8 遅相子のジョーンズ行列
図9 遅相子の例:ホモジニアス配向した棒状液晶

棒状液晶分子は,一軸性の光学異方性を持ち,屈折率異方性は異常光屈折率 ne と常光屈折率 no の差 Δn = ne - no で与えられます. 液晶の配向方向を図9のように y 軸方向に配置した場合,x 軸方向の偏光 Ex の液晶層中の伝搬速度 vx = c / noy 軸方向の偏光 Ey の伝搬速度 vy = c / ne が異なるため,厚さ d の液晶層透過後,Ey に δ = -Δnd /λ の位相遅れが生じます.

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