HOME > 徒然「光」基礎講座 > 光学異方性媒質中の光の伝搬: 4. ジョーンズ行列 2
光学異方性媒質中の光の伝搬: ジョーンズ行列 2
4. ジョーンズ行列2
実用的な遅相子である波長板のジョーンズ行列を調べていきましょう.
4.1 4分の1波長板
実用的な遅相子の応用は,波長板です. 特に,4分の1波長板(λ/4板),2分の1波長板(λ/2板)は,光学系の中で偏光状態の制御に使用されます.
y 軸成分の位相遅延が δ = -π/2 の遅相子を,4分の1波長板(λ/4板)と呼びます. 典型的な入射偏光に対するλ/ 4 板からの出射偏光状態を図10に示します.
位相遅延 δ = -π/2 の遅相子(λ/4板)に 45°方位の直線偏光が入射した場合,遅相子からの出射偏光は図10(a)のように左回りの円偏光に変換されます. その出射偏光は,次のジョーンズ行列で求めることができます.
また,位相遅延δ = -π/2 の遅相子(λ/4板)に左回り円偏光が入射した場合,遅相子からの出射偏光は図10(b)のように 45°方位の直線偏光になります. その出射偏光は,次のジョーンズ行列で求めることができます.
4.2 2分の1波長板
y 軸成分の位相遅延が δ = -π の遅相子を,2分の1波長板(λ/2板)と呼びます. λ/2板の典型的な偏光変換の様子を図11に示す.
位相遅延 δ = -π の遅相子(λ/2板)に45°方位の直線偏光が入射した場合,遅相子からの出射偏光は図11(a)のように -45°方位の直線偏光に変換されます [注4] . その出射偏光は,次のジョーンズ行列で求めることができます.
また,位相遅延 δ = -π の遅相子(λ/2板)に右回り円偏光が入射した場合,遅相子からの出射偏光は図11(b)のように左回りの円偏光に変換されます.
【注4】 位相遅延δ = -π の偏光変換は,位相遅延 δ = -π/2 の偏光変換を続けて2回行うことと等価です. 図10(a)および(b)を続けて行えば,図11(a)になることを確認してください. 行列演算では,光源側から起こった事象の順番通りにジョーンズ行列を右から左に掛けていきます.4.3 マリュスの法則
簡単な測定系をジョーンズ行列で表してみましょう. 図12は,光路中に偏光子と検光子が挿入された光学系です.
図12では,行列式の順番に合わせてエレメントを並べてあります. この系では,光源を出た光は回転する偏光子によって偏光方位が変化する直線偏光に変換され,検光子透過後,光検出器により強度が測定されます. 偏光子の透過軸は,xy 座標に対して角度 α で回転し,検光子の透過軸は x 軸方向に固定されています. 偏光子と一緒に角度 α で回転する座標系を x'y' とし,x' 軸方向を透過軸方位にとります. この,( x'y' ) → ( xy ) の座標回転は,次式のジョーンズ行列 R ( -α ) で与えられます [注5] .
【注5】 座標の回転変換は,三角関数の加法定理を使って導くことができます. 文献 [2] をご参照ください.[2] 田所利康:「ビジュアル解説 光学入門」, 朝倉書店 (2024) p.194.
最後に,検光子を透過した光だけが光検出器まで到達します.
この系のジョーンズベクトル Et = A R ( -α ) P Ei を計算したのが次式です.
ジョーンズ行列計算では,光学系中の複数の素子を表すジョーンズ行列を右から順に掛けていくことで,最終的な偏光状態を求めることができます. (19)式から,Etx =Eix cos α ,Ety = 0 が得られ,検出される光強度は,
と表されます. この偏光子と検光子の相対角度 α と透過する光強度 I の関係は,マリュスの法則(Malus' law)として知られています.
図60は,偏光子の回転角 α に対する規格化光強度 I / I0 をプロットしたものです.
I / I0 は,偏光子の透過軸が検光子の透過軸方位と直交する α = 90° ,270° で 0 になります. この偏光子と検光子を直交させる配置を,スコットランドの物理学者ニコル(W. Nicol)の名から,直交ニコル(crossed Nicols)と呼びます. また,直交ニコルで光強度が 0 になる状態を消光といいます. 一方,偏光子の透過軸が検光子の透過軸方位が一致する α = 0° ,180° では規格化透過光強度が最大になります. この偏光子と検光子を平行にする配置を,平行ニコル(paralell Nicols)と呼びます.
図14は,偏光フィルターを使って撮影した直交ニコルおよび平行ニコルの画像です. 偏光フィルターは,2色性物質(吸収に異方性がある物質)を使って,直交する2つの偏光成分のうち一方を吸収して直線偏光にするフィルム型の偏光子です. 直交ニコルでは消光状態になり背後の画像は見えませんが,平行ニコルでは見ることができます. この原理が液晶ディスプレイの光スイッチングに利用されていることは,ご存じの通りです.
[2] 田所利康:「ビジュアル解説 光学入門」, 朝倉書店 (2024) p.43.