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光学異方性媒質中の光の伝搬: 光学異方性媒質中の光の進み方

光学異方性媒質中の光の伝搬

6. 光学異方性媒質中の光の進み方

液晶や配向膜などの有機膜では,多くの場合,光電場により物質内に生じた分極が特定の方向に偏ることで,その分子構造や配向状態を反映した光学異方性を発現します. 光学異方性媒質は,方向によって異なる光学定数(屈折率 n ,消衰係数 κ )を持つため,光学異方性媒質中の光の振る舞いは,ガラスなどの光学的に等方な媒質とは大きく異なります. ここでは,光学異方性媒質と出会った光がどのように媒質中を伝搬するかを,1軸性結晶を中心に見ていくことにしましょう.

6.1 異方性媒質中の光の伝搬速度

光学異方性媒質の主屈折率(Nx , Ny , Nz )は,屈折率 n と消衰係数 κ を使って,Nx = nx - iκxNy = ny - iκyNz = nz - iκz と与えられます. ここでは,吸収が無く透明な媒質(κx = κy = κz = 0 )を仮定して光学異方性媒質中の光の伝搬について考察していきます.

図15に,(a) 等方性媒質,(b) 1軸性結晶,(c) 2軸性結晶における光の伝搬速度の方向依存性を示します.

図15 等方性媒質/異方性媒質中の光の伝搬
図15 等方性媒質/異方性媒質中の光の伝搬

図中の等速度面は,座標原点にある光源から放射された光(偏光)が空間全ての方向に進んで,単位時間に到達する点を全ての方向についてプロットしたものと考えることができます.

等方性媒質では,3軸の屈折率が等しく (nx = ny = nz ) , 光の進む方向や偏光状態によらず光の伝搬速度(位相速度)は一定です.
1軸性結晶は2軸の屈折率が等しく,1つの軸だけが異なる屈折率(nx = nynz )を持ち,2軸性結晶は全ての軸が異なる屈折率(nxnynz )を持ちます.

異方性媒質中における光の伝搬速度は,偏光面によって変化する.図15(b)において,例えば,光が x 軸に沿って進むとき,y 軸と平行な偏光では速度 v = c / ny で,z 軸と平行な偏光では速度 v = c / nz で媒質中を伝搬することになります. 図15(b)では,ny < nz を仮定しているので,c / ny > c / nz です.
一方,1軸性結晶の z 軸に沿って進む光は,偏光方向に依存せず同じ速度で伝搬します. この偏光方向に依存しない軸を光学軸(optical axis)と定義します.

図15(b)から分かるように,偏光面が光学軸と垂直な光の伝搬速度は伝搬方向によらず一定です. そのような光を常光線(ordinary ray)と呼びます. 一方,偏光面が光学軸と平行な光は,異常光線(extraordinary ray)と呼ばれ,伝搬方向によってその伝搬速度が変化します(異常光線の伝搬速度の方向依存性については本講座第7回をご参照ください). 常光線および異常光線の屈折率は,それぞれ常光屈折率 no ,異常光屈折率 ne と表されます.図15(b)では,nx = ny = nonz = ne です. また,図15(b)のように no < ne の関係にある1軸性結晶をポジ型,反対に no > ne の関係にあるものをネガ型と呼びます.

図15(c)の2軸性結晶においても,3軸の屈折率が全て異なるだけで基本的には同様です. しかし,2軸性結晶の場合,z軸に沿う方向の光の伝搬はもはや一定ではなく,光学軸はxz面内のある方向となります.

光学異方性媒質中でも,光学軸方向では常光線と異常光線が一致して同じ伝搬速度で進むため,光は等方性媒質中と同じように振る舞います.

6.2 屈折率楕円体で常光/異常光を理解する

ここからは,ポジ型の1軸性結晶に話題を絞り,異方性媒質中の光の伝搬について屈折率楕円体を使って考察していくことにしましょう. 異方性媒質中の光の伝搬は,屈折率楕円体を用いると容易に理解することができます. 図16に,屈折率楕円体と常光/異常光の関係を示します.

図16 屈折率楕円体と常光/異常光
図16 屈折率楕円体と常光/異常光

屈折率楕円体は,それぞれの軸方位の屈折率が nxnynz の楕円体で,1軸性の場合には一つの軸屈折率のみが異なります. ポジ型の1軸性結晶の場合,図16(a)のようにnx = ny = no < nz = ne となります. これは,図15(b)を屈折率楕円体で表したものです.

まず, 図16(b)を使って,光学軸( z 軸)方向に進む光を考えましょう. この場合,光の進行方向に垂直な断面は円になり,偏光面の方位によらず屈折率は一定値 no となります. 一方,光を光学軸と垂直な x 軸方向から入射すると,光の進行方向に垂直な断面は図16(c)のように楕円になり,y 軸方向の屈折率は no のままですが, z 軸方向の屈折率は ne になります. つまり,偏光面が光学軸( z 軸)と垂直な常光線は屈折率 no で伝搬し,偏光面が光学軸と平行な異常光線は屈折率 ne で伝搬するのです.

さて,図16(d)のように,光の入射方向を光学軸( z 軸)から xz 面内に角度 θ 傾けた方向にとるとしましょう. 光の進行方向に垂直な断面はやはり楕円になりますが,その長軸の長さは入射角 θ に依存して変化します. つまり,常光線に対する y 軸方向の屈折率は no のままですが,異常光線に対する屈折率は none の中間値をとることになります. この時の異常光線に対する実効的な屈折率 neff (θ) は,次式で与えられます [16] .

(24)式

[3] 山口留美子: 日本液晶学会サマースクール2003予稿集, 日本液晶学会 (2003) 19-32.

異常光線に対する実効的な屈折率neff (θ) は, θ = 0° で最小値noをとり,θ = 90° で最大値neをとります.

常光線が常にスネルの法則を満たすのに対して,異常光線は,その入射方向により屈折率が変化することからスネルの法則に従わず,常光線とは異なる伝搬をします.

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