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SCOUT講座1 「コンピュータシミュレーションによる光学スペクトル分析」 (10/13)

4.4 内部バンド間遷移モデル

内部バンド間遷移をモデル化することは, 容易なことではありません. それらは, 通常, 非対称で非常に強い吸収であることに加え, 多くの場合いくつかの遷移が互いに重なり合っています. そのため, しばしば, 「いくつの励起子を使って記述するべきか」が簡単には分かりません.
さらに, 理論的な量子工学の考察からは, 複素誘電関数の虚部 (吸収に対応) に対する表記しか導くことができません. つまり,対応する複素誘電関数実部 (屈折率に対応) は, クラマース・クローニッヒの関係 ( Kramers-Kroning relation ) を使って作り出してやる必要があります. 幸いここで必要な Hilbert 変換は FFT ( Fast Fourier Transform ) アルゴリズムを用いた 2 つのステップで実行可能で, FFT は最近のコンピュータを用いれば十分に早く計算させることができます. 図21に示す, いわゆる OJL モデル [9] は, アモルファス酸化物, アモルファス窒化物に対して, 非常にうまく合うことが分かっています. この比較的シンプルな OJL モデルで記述できる物質は, SiOx, GeOx, BiOx, TiOx, SnOx, ZnOx などです.

[9] S. K. O'Leary, S. R. Johnson, P. K. Lim: J. Appl. Phys. 82, 7 (1997) pp.3334-3340.

図21図21

図22の例は, ガラス上の SiOx 膜の反射率 / 透過率スペクトルに対して, OJL モデルを用いたフィッティング結果を示しています.
図22図22
一方, 結晶性の物質では, いくつかの Tauc-Lorentz モデル [10] の合成で, その内部バンド間遷移を非常にうまく記述することができます. 次のセクションでは, その例を紹介していきましょう.

[10] G. E. Jellison, Jr.: "Spectroscopic ellipsometry data analysis: measured versus calculated quantities", Thin Solid Films 313-314 (1998) pp.33-39.

4.5 組成変化:マスターモデル

非化学量論的な酸化物や三元あるいは四元の化合物半導体のような組成が変化する物質では, 光学定数も, もちろん, その組成とともに変化します. 図22の例は, Al 含有率が変化する AlGaAs の場合について示しています.
まず, 利用可能ないくつかの Al 含有率 ( x 値) の誘電率ライブラリーデータに対して, 8 つの Tauc-Lorentz モデル内部バンド間遷移項をベースにした誘電関数モデルをフィッティングしました. これにより, ギャップエネルギー, ダンピング係数などの 33 個のパラメーターが, それぞれ個別のx値に対して決まります. 次に, x 値変化に対する各パラメーターの動きを, Al 含有率 ( x 値) に対して光学定数モデルがなめらかに変化するように, 適当な多項式で記述します. この, いわゆるマスターモデルは, Al 含有率層と Al 低含有率層が交互積層された AlGaAs 超格子の光学特性を記述するのに用いられます.
図23図23

4.6 複合材料:有効誘電関数

微視的な不均一さのサイズが光の波長より十分に小さい場合, ホスト中に埋め込まれたクラスタ, ボイド (ホスト中の微小な空洞) , 浮遊物, そして多孔質材料といった複合材料は, いわゆる有効誘電関数 (有効媒質近似) で記述することができます. それらは, あたかも, 含有成分の平均的な光学定数をもつ均質な材料であるかのように振る舞います. いわゆる有効媒質理論は, 誘電率の混合のルールと定式を与えてくれます. 残念ながら, ただ 1 つのユニークな混合法があるわけではなく, いくつかの概念が存在し適用可能です. この話題に関する議論, 有効媒質理論を正しい選択のためのお勧めについては, 本 Web セミナーの範囲から外れるためここでは取り扱いません [11] .

[11] W. Theiss: "SCOUT tutorial 2" (2001) pp.5-27.


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